LTSコラム

一から学ぶデザインシンキング 前編: デザインシンキングは思考法なのか

こんにちは、LTSコンサルタントの相馬悠作です。

昨今、巷には数多くの「シンキング」があふれています。ロジカルシンキング、クリエイティブシンキング、システムシンキング、エッセンシャルシンキング・・・そんな「シンキング」に溢れる時代の中で、少し前から「デザインシンキング」という言葉が注目を集めています。博報堂がデザインコンサルティングファームのIDEOの株を30%取得した話は、ちょっとしたニュースになりました。

私は「大手コンサルティングファームのBCGやアクセンチュアなどでもデザインシンキングが着目されている」というニュースを読んで「コンサルなのにデザイン?ロジカルだけではない?どういうことだろう?」と興味を持つようになり、LTS社内でデザインシンキングの勉強会を主催しています。

今回のコラムでは、なぜ今デザインシンキングが注目されているのか、を考察してみます。

デザインシンキングとは

皆さんはデザインシンキングによって生み出された画期的な商品といえば、何を思い浮かべるでしょうか?

有名な事例の一つがiPodです。当時CD Walkmanが主流だった時代に、「音楽の聴き方に革命を起こす!」というコンセプトのもとiPodは作成されました。iPodの開発プロセスの特徴は、多くの書籍で取り上げられています。
例えば、

– ユーザーの音楽の聴き方の観察を徹底的に実施したこと。
– 心理学者や人間工学の専門家、ソフト・ハードウェア技術者など社内外のエキスパートによるチームを結成したこと。
– 約2ヶ月で100以上のプロトタイプを作成したこと。

このような話はとても有名です。デザインシンキングとは、iPodのようなイノベーティブな商品を開発するための体系化されたプロセスを指します。

デザインシンキングのプロセス

では、どのようなプロセスでデザインを進めるのでしょうか?

デザインシンキングの手法はいくつか種類があるのですが、今回は有名なスタンフォード大学のd.schoolにおけるデザインシンキングのプロセスをご紹介します。

1. 共感
ユーザーにインタビューしたり、行動観察を行ったりしながら、相手に「共感」し、情報収集を行う。
2. 問題定義
膨大な定性データを元に、インサイト(=潜在的ニーズ)を探り、解決すべき「問題」を「定義」する。
3. 創造
問題を解決するためのアイディアだしを行い、発散思考でアイディアを「創造」する。
4. プロトタイプ
創造したアイディアは目に見える「プロトタイプ」という形で作成する。
5. テスト
プロトタイプを用いて「テスト」し、ユーザーの反応を観察する。

必要に応じて、このサイクルを何度も繰り返します

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*d.schoolのホームページを参考に筆者が作成

デザインシンキングのサイクルは、スポーツ選手が上達していくサイクルと共通する部分があります。

例えば、ある陸上の短距離選手を例にとりましょう。短距離選手がタイムを縮めようとする際、まずは自分の走りのフォームをビデオに撮り、徹底的に観察します。観察の結果、例えば腕の振り方に問題があることが分かれば、それを直すためのトレーニングを考案し、実践します。もちろん1回のトレーニングでは改善しないので、自分のフォームを何度も確認しながら、課題部分を修正します。このようなサイクルを何度も繰り返すことによって、短距離選手はタイムを縮めることができます。

商品開発においても、試作した商品が一回で大当たりする可能性は高くはありません。しかし挑戦と失敗を短期間に何回も繰り返すことによって、少しずつユーザーが求める商品に近づけていくことができるのです。iPodは約2ヶ月で100以上のプロトタイプが作成されたことはすでに上で述べましたが、任天堂Wiiは1000回以上のプロトタイプが作成されたと言われています。そのくらいの根気と努力が必要だということですね。

このようなトライ&エラーのサイクルを日々の仕事で実践している方は意外と多いのではないでしょうか。私が社内でデザインシンキングの勉強会を開いた際も「自分も同じような仕事の仕方をしている」という社員がいました。コンサルティングの仕事では、「お客様が必要なことは何かを考え、たたき台の資料を作る。それをベースに議論をし、お客様が真に必要なことを見極め、また資料を作り直す。もう一度レビューをもらい、再修正をし・・・」といったプロセスを取ります。これはまさにデザインシンキングの心構えと言えます。

本当はシンキングじゃないデザインシンキング

これまでデザインシンキングのプロセスを見てきましたが、ロジカルシンキングやクリエイティブシンキングなどの他の「シンキング」とは何が違うのでしょうか。

ロジカルシンキングは、論理的に物事を思考するための手順・枠組みです(例:MECEやイシューツリーなど)。クリエイティブシンキングは、クリエイティブに物事を思考するための手順・枠組みです(例:KJ法やブレーンストーミングなど)。しかしデザインシンキングは、何かを思考するためだけの手順・枠組みではありません。

デザインシンキングという概念を生み出したティム・ブラウン(デザインコンサルファームIDEOのCEO)は以下のように語っています。

「デザインシンキングとは、イノベーションを生み出す、人を中核としたアプローチです。人々のニーズ、テクノロジーの可能性、ビジネスとしての成功をひとつに組み合わせるデザイナーの手法から導き出されたものです。」

デザインシンキングは思考法だけではなく、イノベーションを生み出す上での姿勢や、さまざまな実践的な手法を融合させたアプローチです。多くの書籍やWebサイトでデザインシンキングは「デザイン思考」と訳されていますが、私はむしろ「デザイン志向」とする方が近いのではないか考えています。

デザインシンキングが注目される背景

イノベーションを生み出すプロセスであるデザインシンキングが、なぜ今注目されるのでしょうか?

今や、我々の生活の周りには、使いこなせるか分からない量の「機能」と「情報」に溢れています。私の家のテレビのリモコンには、64個のボタンがありますが、このうち、使っているボタンは約20個(チャンネル+入力切替+音量)でした。残り44個のボタンが使われることは、残念ながらこの先ほとんどないでしょう。是非、ご自宅のテレビのリモコンを確認してみてください。

その一方で、少し前に発売されたApple TVには6個のボタンとタッチスクリーンしかありません。ユーザーが混乱することなく、使いたい機能を使いこなすためには、この数が重要だとAppleは考えたのでしょう。このボタンの数の差こそが、デザインシンキングが注目される背景につながっています。

一昔前のテレビは、電源スイッチとチャンネルを切り替える2つのダイヤルだけで事が足りました。この時代は、作ったモノを売る、プロダクトアウトの時代です。企業は、新技術を使って新しい商品を開発し続けました。商品開発のプロセスでは、各部門が各プロセスの役割を担うバトンリレー方式が採用されていました。

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出典:「プロダクトデザイン(ワークスコーポレーション刊)」を元に筆者が作成

技術的な成熟度が一定のレベルに達すると、マーケット調査をベースに商品開発が進んでいく、マーケットインの時代がやってきました。商品開発プロセスも「顧客が望むものを作る」というスタイルに変わっていきました。商品開発のプロセスは、バトンリレー方式よりクロスファンクション方式を採用する企業が増え、顧客が望む機能を取り込んだ高品質な商品開発が目指されました。

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出典:「プロダクトデザイン(ワークスコーポレーション刊)」を元に筆者が作成

しかしある時点から、モノが持つ機能の数と能力が、顧客の想像を超えるようになってしまいました。「あなたはテレビにどんな機能が欲しいですか?」とマーケット調査をしても、顧客はこれ以上どのような機能をテレビに期待して良いのかわからないので、的を射た回答にはなりません。このような調査では消費者の顕在ニーズは分かっても、消費者のインサイト(=潜在ニーズ)を知ることはできないのです。

ピント外れの顧客の声から技術者が良かれと思って実装した機能は膨れ上がり、テレビのリモコンには使われないボタンばかりが増えていきました。アンケートでは多くの顧客が「欲しい」と答えた3D機能が、実際にはほとんど使われず、3Dテレビがメーカーの期待したような売れ行きにならなかったのは有名な話です。これについて、自動車を爆発的に普及させたヘンリー・フォードは、「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。」という有名な言葉を残しています。

こうした背景の中で、企業が消費者の真のニーズに応えイノベーションを生み出すための方法論として、デザインシンキングが注目されるようになりました。顧客に直接、欲しい機能を聞くのではなく、顧客の行動を観察し、顧客の立場に共感することで顧客が潜在的に望んでいるものを見つけだします。そしてプロトタイプとテストという手法を繰り返すことで、最終的に顧客にとって必要なものにたどりつきます。このサイクルの中でAppleが最終的に得た答えが先ほどの6個のボタンとタッチパネルからなるテレビだったのです。

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企業におけるデザインシンキング活用への挑戦

デザインシンキングへの認知率はここ数年で大きく向上しました。
一部の先進的な取り組みをする企業ではデザインシンキングを積極的に中核戦略に取り入れ様々な取り組みを行い、成果が出始めています。

しかしデザインシンキングの活用で課題を抱えている企業は少なくありません。先にも述べましたが、デザインシンキングは、個人レベルでは比較的、容易に実行できる心構えであり、プロセスです。しかし、多くの企業がこれを実践しようとすると、旧来の企業風土や事業管理の仕組みとの間で多くの壁にぶつかるのです。

後編では、企業がデザインシンキングを実行するために変革しなければならないポイントを考察する予定ですので、楽しみにしていてください。

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