LTSコラム

海外の動向から取り残される日本のBPO 後編: BPMそして先端技術への対応が求められる日本のBPOプロバイダー
2016.4.22

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。前編「効果が出ていない日本のBPO活用」では、日本のBPOの市場概況と活用企業から見た効果の状況を振り返ってみました。後編では、このようなBPO市場の状況の中での日本のBPOサービスプロバイダーの強みと弱み、そしてこれからの在り方について語ってみたいと思います。

日本のBPOサービスプロバイダーの強みと弱み

 

前編では日本のBPO活用ではしっかり効果を出すことが出来ていない、ないし効果が出ているのかも分からないという状況にあるという話をしました。このような中、日本のBPOサービスプロバイダーはどのような状況にあるのでしょうか。前述のように日本のBPOサービスプロバイダーは主にCRM(コンタクトセンター)の領域を中心に1990年以降、急速な規模的成長を遂げてきました。

本来のBPO(Business Process Outsourcing)とはサービスの成果に対して顧客が対価を支払うもので、処理当たりコスト(CPT=Cost Per Transaction)で算出することが一般的です。この処理当たりコストを担当者一人あたりの稼働時間で割ったものがいわゆるFTE( Full-Time Equivalent)、フルタイム当量です(※)。

※ よく混同されますが、FTEに対する課金は、担当者一人当たりの頭数への課金とは根本的に異なります。前者はあくまでも処理量に対する課金であるのに対して、後者は人一人あたりの稼働時間に対する課金です。

 

顧客(発注者)とBPOサービスプロバイダーとの契約は成果によって規定され、成果を生み出すための処理手順(プロセス)の設計・変更についてはサービスプロバイダー側に原則的な主体があるということが「ビジネスプロセスアウトソーシング」の本来の姿です。

 

しかしながら日本のBPOサービスの多くがこのような体制では運営されていません。日本の顧客(BPO発注者)は多くの場合、自社が行っていた業務を同じ処理手続きのまま行うことを要求し、BPOサービスプロバイダー側の仕様に基づいた自社業務の変更には後ろ向きです。一方で、成果を規定するはずのSLAについてはこれを結ぶことが出来ていないと思われるのは前編で説明した通りです(※)。

※ SLAを結ぶ前提としてBPOサービスプロバイダーに委託するプロセスが含まれるビジネスプロセス全体の構造理解とKPIによる目標管理が前提となるため、このようなKPIの体形を持っていない多くの会社で委託するサブプロセスについても明確なKPIを設定できません。よってこれはどちらかと言えば顧客(発注者)側の問題です。

 

このように日本のBPOでは、成果を明確に規定しないまま、あくまでも特定の手順(プロセス)を実施するための人員を外部から借りて行うという形態が大半です。これは厳密に言えば「ビジネスプロセスアウトソーシング」ではなく、「アウトタスキング(※)」に分類されます

※ 自社標準の業務を、外部のリソースを借りて実施する外部委託の形態。ビジネスプロセスは発注者側で定義し、作業進捗や品質管理も発注者主体で行います。サービスプロバイダーは原則、労働力を提供しているのみで、業務品質や成果に責任を負うのは主に発注者側になります。

 

日本のBPOサービスプロバイダーは、ビジネスプロセスへのオーナーシップを持たないまま安価な労働力確保の手段として多用されてきたため、その能力において若干偏った強みと弱みを持っています。

 

日本のBPOサービスプロバイダーが持つ強みとしては「人員の採用力」「複数のサービス提供拠点(センター)の保持」という点が挙げられます。この二つの強みは相関関係にあり、サービス提供拠点の立地がほぼ人員の採用力に繋がるからです。またこれらの付随能力として「大規模なセンターにおける人員マネジメント力」についても一定の能力を有していると考えてよいでしょう。一部のプロバイダーはアジアを中心に海外にもサービス拠点を持ちます。

 

逆に弱みとしてはビジネスプロセスマネジメント(BPM)能力の不足が挙げられます。前述のような日本特有のBPO発展過程のため、顧客のビジネスプロセス全体から、アウトソーシング対象とするプロセスを切り出し、委託後に継続的に業務を改善していくマネジメント力を育成できていません。よって業務は顧客側から提示された手順を愚直に実行するケースが大半であり、サービスプロバイダー側で業務の設計・分析・改善を主体的に行うケースは決して多くはなく、仮に存在しても小改善にとどまります。

 

弊社LTSとしての過去のプロジェクト経験に閉じた話をしても、大手を含む複数のサービスプロバイダーの担当者の能力は高いとは言えませんでした。顧客からの業務移管に伴う業務分析力(Business Analysis=BA)と、プロジェクトマネジメント力(PM)の双方の能力のレベルが低く、基本的な業務フローの作成能力や移管タスクの切り出し能力も持っていないことが大半でした(このためLTSのようなコンサルティング会社の支援が必要となります)。このようなスキルを体系的に育てる取り組みは多くのサービスプロバイダーで出来てはおらず、このような能力を保持している担当者がいたとしても、それはその担当者の前職の経験に基づいたものであるか(※)、個人的努力ないし資質によるものであることが大半です。

※ コンサルティング会社や、海外のサービスプロバイダーからの転職者も多いので、そのような人であればこのような能力を保持しているケースもあります。

 

BPOは本来、BPMのソリューションの一つであり、業務の効率化・最適化の手段であるはずなのですが、日本のBPOはリソース確保という、むしろHRM(Human Resource Management=人的資源管理)の一環として活用されてきたとも言えます。冒頭のようにBPO業界全体の伸びが頭打ちになる中、ようやく業界内で業務分析能力の必要性が論じられるようになり、業務改善へのコミットメント(約束)をサービスの差別化要素とするプロバイダーが現れてはいますが、業界全体としてプロバイダーの能力が底上げされるにはまだしばらく時間がかかると思われます。

 

日本企業が慢性的抱えるビジネスプロセスマネジメント能力の不足

 

ただし、日本においてはそもそも産業界全体にビジネスプロセスマネジメント自体が定着していないため、必ずしもプロバイダーだけが責められるべき問題ではありません。日本でビジネスプロセスマネジメントが定着していない理由としては、以下のような過去の日本的労働慣行がよく挙げられます。

■ 終身雇用が前提であり「担当者が頻繁に入れ替わる」という前提がない(新たな担当者に業務を引き継ぐための基盤を必要としない)

■ 人だけでなく組織面からも、系列会社やグループ会社中心の取引でサイロ化しており、事業を構成している組織(企業)が頻繁に入れ替わるという前提がない

■ 担当者が長年勤務しており担当者の業務スキルが高い(業務実施者が業務設計者を兼ねる)

■ 文化的多様性が小さく「阿吽の呼吸」が効く(あえて文書化しなくても良い)

■ 現場の権限が強く、業務設計がボトムアップである

 

これまでの日本企業はビジネスプロセスマネジメントを実施しなくても「強い現場」と「社員やグループ会社の強い結束」の元、大きな問題が生じていませんでした。ところが近年、団塊の世代退職に見られる社員の世代交代や、ITの導入、企業グループや“ケイレツ“の解体、取引のグローバル化という背景の中でこの点が大きな課題として認識されるようになりました。

 

既に述べたようにBPOサービスプロバイダーに求めるサービスレベルやKPIを伝えるのは本来、発注者(ユーザー企業)側です。プロバイダーの能力を引き出し、その能力を高めるプレッシャーを与え続けるのは発注者側の責任でもありますから、ここについては発注者側とプロバイダーの双方が意識を持って頂きたいと思っています。

 

未来の変化に備える

 

先日の吉野のレポート「世界ではBPOについて何が話されているのか?」にも書かれているように、世界のBPOの現場では「コストの高い人員を安い人員に置き換える」というBPOではなく、「人を機械(ITやロボット)に置き換える」という議論が盛んになりつつあります。BPMの能力を高めたその先には、このような先端技術を使ったビジネスプロセス変革が待っています。

 

IAOPのアウトソーシングプロバイダーのランキング「The Global Outsourcing 100」を見ると、この中にはアクセンチュアやHP、パクテラなど、多くのIT企業やコンサルティング会社が見てとれます。このランキングには参加していませんが、IBMなども世界の主要なアウトソーシングプロバイダーの一つです。このようなIT企業はITアウトソーシングだけでなく、多くのBPOも手掛けています。世界の先進プロバイダーの中ではもはやビジネスプロセスの実行者が人か機械かということは問題ではありません。人と技術の双方の観点からサービスを提供する体制を整えようとしています。

※ 2015年のリストはこちら
https://www.iaop.org/Content/19/165/4129

 

残念ながら日本ではIT企業とBPO企業はほぼ別の業界となっています。日本の主要なIT企業の名前を聞いてもBPOを手掛けているイメージはないですし、その逆にBPOやコンタクトセンターのサービスプロバイダーの名前を聞いてもITやロボットに強いイメージは持てません。もちろん、実際にはIT企業も一定のBPOを手掛けていますし、逆にITへの投資を強めているBPOサービスプロバイダーもあります。ただ総じて見ればこれらの会社が住む業界は別れてしまっているのが現状です。

 

このような状況で日本のBPOサービスプロバイダーは来るべき変化に対応することが出来るのでしょうか?世界の動向を追いながら、来るべき変化に備えることが出来ている日本のプロバイダーは少数です。IAOPへの日本からの加盟企業は現在のところLTS一社だけです。トランスコスモス社が先ほどの「The Global Outsourcing 100」にランクインしており、さすが業界をリードする企業だと感じるところはありますが、総じてみれば各プロバイダーの市場動向調査や研究開発投資、そして人財育成への意欲の低さは危惧を覚えるところでもあります。

 

少し厳しめの論調になってしまいましたが、ここ数年、多くのコンタクトセンターやBPOのプロバイダーと接し、海外の動向を見てきた中で感じたことを正直に書きました。これからも国内外のアウトソーシングの動向について積極的に発信していければと思います。ご意見やご批判も含めて、今後の日本のBPOのあるべき姿について皆さんと積極的に議論ができれば幸いです。

 

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