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デジタルテクノロジー

RPA本格展開を成功に導くポイント 効果を出すRPA導入からAI活用に向けた一手(中編)

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2019年12月に掲載されたものを移設したものです。

ライター

髙橋 賢人(LTS マネージャー)

業務変革PJに従事し、プロセス可視化・工数計測、業務分析・課題抽出、KPIフレームワーク設定等を経験。その後、一連のRPA導入支援に携わる。近年、製造業におけるデータマネジメントの構想策定、標準ルール策定、人材育成プログラム構築に取り組んでいる。(2021年6月時点)

こんにちは、LTSコンサルタントの高橋賢人です。今回の「効果を出すRPA導入・拡大からAI活用に向けた次の一手」のコラムでは、第1回~第3回の3回に分けてお送りしています。前回の第1回では、RPAがブームとなった背景や企業の中でどのように使われているか、そして実際に導入した企業での悩みをご紹介しました。今回の第2回では、RPA導入企業で生じている課題を解消しRPAの拡大展開を推進するためのポイントをご紹介します。第1回をまだ読んでいない方は、ぜひこちらからご覧ください。

RPA導入の本格展開を成功に導くポイント

RPA導入企業の悩みは大きく分けて「RPA人材不足」「RPAを“そのまま”適用できる業務が少ない」「社内関係各所がRPA導入に懐疑的で協力を得られない」の3つが考えられます。これらの課題を解消し、拡大展開を推進するには、次の5つがポイントになると考えられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

  1. 部門横断的なRPA推進チームの編成
  2. 社内RPA人材育成制度の整備
  3. 業務アセスメントによる目利き
  4. 現場の業務改善への意識変革
  5. 内部統制ルールの策定

①部門横断的なRPA推進チームの編成

全社RPA推進の中核を担う初期メンバーは、社内のRPA推進メンバーとRPAベンダや導入・開発ベンダなど外部のメンバーで構成されることが多いです。また、社内のRPA推進メンバーはIT部門から任命されることが多く、各部門中核メンバーは、極力ITリテラシーの高いメンバーのアサインが望ましいです。その理由は、今後各部門におけるRPAの推進やスキトラを担うことになるためです。

理想的な体制構築としては、トップダウンによる経営層からの号令で、外部メンバーの支援を受けつつRPA/DXの専任チーム・専任担当者を立ち上げること。さらにボトムアップにより現場を巻き込んだ取り組み、現場のニーズや多様性を取り入れながら、取り組みに対する理解・協力を得る方法で部門横断組織を編成し、全体最適な改革につなげていきます。

②社内RPA人材育成制度の整備

RPAを本格導入に導くためには、RPA拡大展開時の開発・運用コストや、普及スピードの観点から、社内RPA人材の育成も鍵となります。初期は外注メンバーを中心に、成功事例を積み上げ、社内ナレッジを蓄積すると良いです。次に、社内講習会を開催し、社内メンバーへの基礎開発スキルの習得を図り、社内講習会をクリアしたメンバーを含めた混合チームを編成し机を並べて開発を行う(OJT)と、徐々に社内メンバーへのスキトラができるようになってきます。拡大展開を見据えた場合、やはり、社内RPA人材を育成することが、総所有コストや普及スピードの観点から有利であることがわかります。

ここで、自走化に成功したお客様の社内RPA内製化チームの事例をご紹介します。始めに、1つの業務自動化を私たちLTSが作成し、講習会で社内メンバーへの基礎開発スキルの習得を図った後、社内メンバーを入れた混合チームで実際の業務の自動化に取り組みました。

成功要因は、トップダウンで社員がRPA人材としてアサインされ、RPAスキル習得の時間が決められたことです。普通、業務担当者は通常業務をこなすのに精いっぱいで、RPAスキル習得時間の確保が難しい場合が多いです。このように、トップダウンで稼働率を調整することで、安心してRPAスキル習得に励むことができます。比較的小規模で簡単な業務は社内メンバー、大規模で複雑な業務は外注メンバーという、混合チームで自動化範囲を広げていく戦略も良いと思います。

また、別のお客様では4段階のレベルに分けたRPA講習会を実施し、社内RPA教育認定制度を構築しました。

簡単なRPAを作れる基本レベルから、本格的なRPAを作れる応用レベルまでの社内認定資格制度を整備し、Lv.4までの認定資格を取得した各業務部門の社員に、RPAの運用や開発の権限を持たせて、確実な拡大展開を図っています。これはガバナンスの観点で、野良ロボ化や、不正な改変が発生しないような仕組みにもなっています。現時点では、認定制度と評価制度の連動はありませんが、より社内のRPA人材を増やしていくとなれば、評価制度と連動できることが望ましいです。そうすることで社員のモチベーションにもつながります。

③業務アセスメントによる目利き

部門ごとの個別最適が進むと、RPAなどの改善手法の拡大展開が進まなくなってしまうケースがあります。そうならないために、まずは部門横断での業務アセスメントが必要です。業務アセスメントをやらないと「声の大きい人や部門の業務が選ばれる」「全社の観点で効率が悪い」「同じような業務をやっているのに気が付かない」といったことが起きてきますので、まずは全体最適の観点での改善対象の優先順位付けをします。実際に私がご支援したお客様の事例を通してご紹介します。

あるお客様では、12部門から115件の業務の応募がありました。各部門にヒアリングを実施し、RPA化に向かない業務を除外、効果が見込めるかどうか、開発難易度が高すぎないかどうかを判定した結果、RPA化によるROIが見込めると判断される業務は、19業務に絞られました。業務数としては応募全体の五分の一に満たない数ですが、削減効果としては応募業務全体の6割を占めることになりました。

業務アセスメント時のよくある落とし穴として、全体の業務ボリュームは大きいけれども、RPAが代替可能な作業は少ないケースがあります。お客様へのアンケートで申告された削減工数は大きかったですが、実際にヒアリングしてみると、紙申請書との照合チェックや、判断業務など、RPAだけでは実現できない作業が大半を占めていたのです。このようなギャップが生じる原因は、現場が、RPAの“できること”“できないこと”を理解していないことにあります。そのため、俯瞰的な視点での目利きにより、部門横断で標準化できる業務の探索、タスクレベルで共通している業務の探索をすることがポイントとなります。業務アセスメントの観点がないと、同じような業務をやっているのに気が付かない、業務は異なっても、分解していくと汎用化できる場合がある、といったことがあるためです。

業務アセスメントでは、3ステップを通してRPA化対象業務を選定していきます。はじめに各部門からRPA対象候補業務を募集します。このとき、明らかにRPAの対象となり得ない業務が上がってこないようにするため、事前にRPAの“できること“と“できないこと”を説明する機会を設けるべきです。そして、応募された業務を3ステップで絞り込んでいきます。

ステップ1:RPA不可領域を除外すること。紙運用が残っていたり、判断や例外が多い業務は除外します。
ステップ2:RPA導入による効果の観点で優先順位を付け。効果は、基本的には、削減工数、つまり「人の作業がどれだけ減るか」で比較します。
ステップ3:開発難易度の観点で優先順位を付け。パターン数、入力項目数、ステップ数が多ければ多いほど、開発難易度は上がり同時に運用後のメンテナンスコストも上がります。

このように、導入前の目利き(業務分析・アセスメント)により、RPA導入による効果・効率を最適化することが可能となります。

④現場の業務改善への意識変革

現場で起きている課題やニーズは、現場で業務を実施している人にしかわからないものもあるため、目利き後の業務プロセス改善は、現場主導で取り組んでいくことが好ましいです。例えば、担当者によって業務手順がバラバラである場合は、どの手順を統一しロボットに任せるかなどの判断は、業務を把握している現場レベルの人にしかできません。また、フォーマットの見直しについては、取引先や商材によってバラバラなフォーマットを人とロボット双方にとって使いやすいフォーマットに統一しなければなりません。しかし、現場を知らない外部の人では、ロボットにとって使いやすいフォーマットにしかならない可能性があります。目利き後の業務プロセス改善では、現場担当者しか気づけない課題やニーズをすくい上げることがポイントとなってきます。

このようなRPA導入の取り組みを通して、現状業務への課題意識や業務改善の意識が芽生えるなど、現場にも変化が表れてきます。現場担当者は、既存の仕事のやり方を極めているため、そもそも課題意識を持っていないことが多いですが、業務アセスメントを通して現場担当者に課題意識を持ってもらうことで、最終的には現場主導の取り組みに変わっていきます。

例えば、プロジェクト開始時には「どんな業務にもRPAを適用できる」「どんどんRPAに置き換えていこう」と話していたお客様がいましたが、プロジェクト終了時には「その業務だったらRPAよりいい施策がある」「業務整理をしっかりとしてからRPA化しよう」と提案してくださるようになりました。RPAの得手不得手を正しく把握したことで、RPAありきではない最適な業務改善方法を模索し始めたというケースもありました。また「ミスが多かったのは個人のせいではなく業務ルールのせいだった」「他の業務でもルールの整備を検討してみる」といったように、業務効率化への前向きな気持ちが高まり、業務改善活動が自発的に起こるようになりました。RPA導入の取り組みが、現場が主体的に業務の可視化や分析の視点を獲得し、業務変革を推進するキッカケとなってきています。

⑤内部統制ルールの策定

PRAの活用には、各社がIT規定に則ったRPA開発・運用ルールを策定し、社内関係各所へ浸透させるための地道な活動が求められます。ロボットは既存のIT規定に定義されていないことが多いため、ガイドラインを作成し、ロボットがエラーを起こした場合のリカバリー手順や責任分担などをしっかりと定義することが重要です。また、ロボットの動きを明示した仕様書のテンプレートであったり、ロボットを簡単に作りやすくするキットのようなものを作ってあげることもRPA推進チームの役割になってきます。さらに、ロボットの数が増えた場合、サーバー管理ツールを導入したり、その他のセキュリティ施策などを検討にいれる必要もあると考えられます。このようにルール作りと管理ツールを複合的に組み合わせた対策が必要になってきます。

まとめ

ここまで説明したことをまとめますと、RPA導入の本格展開を成功に導くには、トップダウンとボトムアップの融合が重要なポイントになります。
経営層からの号令・旗振りによる推進チームの組成、そして社内RPA人材の制度の充実、個別最適を防ぐための俯瞰的な視点での業務アセスメントやルールの整備といった施策は、トップダウンで進めます。そして、トップダウンだけでは救いきれない現場の課題・ニーズの拾い上げ、現場の業務改善への意識改革、さらには現場におけるRPA理解を並行して進めていくことにより、RPAの本格展開で起きる課題を克服し拡大にむけた活動を進めることができます。

第3回では、RPAやAIなどを含めたデジタルソリューションを活用している、またはこれから活用を検討している企業へ、デジタル変革に向けた次の一手としてデータ活用の進め方・ポイントについてご紹介します。