LTSコラム

欧州のビジネスアナリストの動向~国際的に高まる需要への取り組み~(後編)「ビジネスアナリストのマネジメント」

こんにちは。LTSのビジネスアナリストの大井はるかです。先日、IRMUKという団体が主催する欧州のビジネスアナリシスのカンファレンス「Business Analysis Conference Europe 2018」に参加してきました。前回の前編では、ビジネスアナリストへの需要が増加している背景を受け、欧州ではどのようにアナリストを育成しているかご紹介しました。後編では欧州でのアナリストのマネジメントの取り組みについてご紹介します。

カンファレンスの開催会場のウエストミンスター寺院のセントラルホール

ビジネスアナリストの組織力の強化

近年、欧州の企業を中心に社内のビジネスアナリストを組織化し、全社のビジネスアナリストに対してスキル向上やモチベーション向上を働きかける動きが見られています。もちろんビジネスアナリストも社内では何らかの部門のような “組織”に属します。しかし、もっぱらプロジェクトごとにアサインされて働くため定常的に同じチームで働くことが少なく、他のビジネスアナリストと連携して働く機会が少ない傾向にあります。そのため教育を共に受けたり、相互の情報交換を行ったりということもやりにくい背景があります。また、ビジネスアナリストはいろいろなステークホルダーの間で調整役を務めるので、非常にストレスがかかる仕事です。ビジネスアナリストの動きが個別化してしまうと、このような個人の悩みや不安を共有したり、周囲がケアしたりすることも難しくなってしまいます。ですから組織に所属していても、本当に“組織的に”動けているかというと必ずしもそうではありません。

しかし近年、ビジネスアナリストをより有機的なチームとして組織化する動きが見られるようになりました。その背景には、アジャイルへの適応、増え続ける新しいテクノロジー知識の習得など、ビジネス側からビジネスアナリストに求められる要求が高くなっていることがあげられます。こうした状況を打開するには個人では限界があるため、社内のビジネスアナリストを組織化して全体として能力を高めていく動きに発展しているのだと思われます。この動きは数年前から徐々に見られてはいましたが、今年は昨年と比較しても取り組みを進める動きが強く、また北米と比較すると欧州の企業でより多く見られました。

ビジネスアナリストを組織化する動きには2つの観点があります。1つは社内のビジネスアナリストに対する「組織的なケイパビリティの強化」です。大手企業ともなれば数十人~数百人のビジネスアナリストを抱えていますし、複数拠点に所属が分散されていたりします(会社によってはITチームにビジネスアナリストをまとめて配属しているところもあれば、そのITチームを拠点ごとに分散して持っていたり、事業部門を含めた各部門にビジネスアナリストを配置していることもあります)。大勢のビジネスアナリストが分断されている状態では共に学んでいくことが難しいので、欧州の企業では、拠点や所属部門のサイロを越えたビジネスアナリストチーム全体に対するトレーニングやナレッジシェアの仕組み作りに向けて動き始めています。
これまではビジネスアナリストはプロジェクトごとに個として働く人が多く組織的なマネジメントはあまり機能していなかったと聞きますが、スキルやリソース、メンタルケアといった観点でのマネジメントを強化することで、チームとしてビジネスアナリストが働けるようにするためだと考えられます。
ある欧州の金融会社では、ビジネスアナリストチームの組成に伴い、一定以上のシニアビジネスアナリストをビジネスアナリストチームのリーダーとして認定し、各リーダーにパフォーマンス…各ビジネスアナリスト達のパフォーマンスの維持管理、プロフェッショナル…専門性の育成、リソース…アサイン管理や必要人員の採用など、リレーションマネジメント…ビジネスアナリストのメンタル面でのケアやモチベートといったリーダーシップロールを割り当てています。

この会社では数百人のビジネスアナリストを擁しており、領域ごとに割り当てられたリーダー達がリーダーシップの側面から自社のビジネスアナリストをケアしています。

別の欧州の金融機関では約2000人のビジネスアナリストを擁しており、ビジネスアナリストのコミュニティを公式に立ち上げて地道にナレッジシェアや共同トレーニングを進めたり、チーム形成のワークショップを行ったりしています。こうした体制整備を通じて組織的にビジネスアナリストのスキルアップをはかり、またモチベーションを高めています。

事例として紹介されている話を聞く限りは、実際にチームやコミュニティを公式に形成したことで、複数拠点のビジネスアナリスト同士が実は似たような問題を抱えていることが分かったり、合同で勉強会を開くなどしてスキルアップの取り組みを進められたりとメリットを享受しているようでした。

ビジネスアナリシスのポートフォリオ管理

もう1つのビジネスアナリストのマネジメント観点として、ビジネスアナリシスのポートフォリオ管理が挙げられます。デジタルを活用した業務変革やアジャイル開発の導入など、企業ではこれまでになかった業務変革に取り組まなくてはいけなくなっています。中にはビジネスモデルから根本的にビジネスプロセスを作り変えなくてはいけないこともあります。そのような中で企業の中にはビジネスアナリシスに関連する仕事をする人が乱立気味になっています。例えばビジネスアーキテクトやプロセスアーキテクトといった経営戦略を個々のプロジェクトに落とし込む超上流の仕事をする人もいれば、ビジネスアナリストの中でもデータアナリストに近いより個別具体的な専門性をもった人もいます。最近ではAIビジネスアナリストやRPAビジネスアナリストといったソリューション特化型のビジネスアナリストや、物流やHRなど業務領域ごとのビジネスアナリストも登場しています。もちろん旧来型の情報システムを導入するためのビジネスアナリストは今も主力であり数多く存在します。このように、ビジネスアナリストはビジネスの有り様が変化するのに伴いその領域を広げ、より専門性が多様化する流れにあります。欧州の企業の中には、このように広がっていくビジネスアナリストの領域をきちんとすみ分けて、人材を管理し、ポートフォリオを組んでいるところもあります。以下はビジネスアナリストの役割を領域ごとに定義し、人員配置している企業の事例です。

この例で取り上げている企業では、ビジネスアナリシスの役割ごとに必要なスキルや組織の中で果たす役割が定義されています。会社として必要なビジネスアナリストの領域があらかじめ決められているので、そこから逆算的に人を採用・育成していくことができます。こうした動きから、企業にとってビジネスアナリストは「特定プロジェクトにとって必要な役割」ではなく、これからの業務変革の取り組みを牽引する一員であり、アジリティを志向する企業にとって重要なケイパビリティ(組織的能力)とみなされていることが分かります。

まとめ

以上がBusiness Analysis Conference Europe 2018のレポートとなります。同カンファレンスでは、こうしたテーマの他にもデジタル化への対応やデータモデリングに関する具体的なテクニックに関するセッションも行われていましたが、私にとっては本コラムで紹介したインターンからのビジネスアナリストの育成や組織的なケイパビリティの醸成といったテーマが非常に印象的でした。というのも、こうしたテーマからビジネスアナリストの需要がそれだけ高まっており、専門職として認められ、企業が育成に向けて投資する姿勢を伺うことが出来たからです。

実はビジネスアナリストが普及している欧米諸国ですら、これまでビジネスアナリストはその仕事内容がコミュニケーションを主体とすることから、あまり専門性が高い仕事とは認められず、育成のための予算もつきにくい状況にありました。そもそも職業として確立されていない日本と比べるとはるかに進んだ状態ではあるのですが、それでもカンファレンス等に参加するとビジネスアナリストの専門性が認められにくい、何でも屋だと思われている、プロジェクトメンバーに対して役割の説明責任がいちいち求められるといった愚痴を聞くことも少なからずありました。しかし、近年はビジネスアナリストの需要増加や必要なスキルセットが変化したことをきっかけに、体系的な育成の必要性が高まり、ビジネスアナリストの専門性が企業の中で定義され、投資されるようになってきていることが分かりました。

ビジネスアナリストが普及していない日本では、ビジネスアナリストの育成が急務であり、欧州から学ぶことは非常に多いと感じます。ビジネスアナリシスの本場は北米ですが、北米の場合は自身のスキル評価やスキル開発は個人に依存している傾向があるので社内で人材を育成する傾向がある日本企業との親和性は高いとは言えません。日本企業であれば、社内にビジネスアナリストのチームを作る場合は自社にとって必要なビジネスアナリストの役割とスキルを定義するところから始め、組織的にソフトスキル・ハードスキルの両面からしっかりと育成していくことが望ましいでしょう。日本では“海外”というともっぱら北米を参照することが多いようです。ですが、労働市場や社会制度といった環境が米国に比べてより日本に似ている欧州企業の事例は日本企業にとって大変参考になります。視野を広げて是非、欧州の取り組みも参考にしてみてください。

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