LTSコラム

欧州のビジネスアナリストの動向~国際的に高まる需要への取り組み~(前編)「ビジネスアナリストの育成」

こんにちは。LTSのビジネスアナリストの大井はるかです。先日、IRMUK※1という団体が主催する欧州のビジネスアナリシスのカンファレンス「Business Analysis Conference Europe 2018」に参加してきました。このカンファレンスはUKを中心に欧州で働くビジネスアナリストが集まり、情報共有やネットワーキングを行う目的で開催されています。今回のコラムではその参加報告として、欧州におけるビジネスアナリストの関心事をレポートしたいと思います。前編では「ビジネスアナリストの育成」を、後編では「ビジネスアナリストのマネジメント」をテーマに2回に分けてお送りしたいと思います。

カンファレンスの開催会場のウエストミンスター寺院のセントラルホール

ビジネスアナリスト急増の背景

近年、国際的にビジネスアナリストのニーズが急増しています。その背景には、従来の基幹システムを中心とした情報システムの開発と管理に加え、AI、ビッグデータ、IoT、フィンテックなど様々なテクノロジーの業務適用の機会増加、RPAやクラウドサービスの普及による今まで費用対効果的に自動化できなかった業務の自動化余地の増加など、全体的に業務変革の機会が増加していることがあげられます。特にソリューションの進化に伴うデジタル変革の機会は非常に増えており、それに伴いテクノロジーの力を借りつつビジネスを変革していくビジネスアナリストのニーズが増えているわけです。米国労働統計局によると、2020年までにアメリカでは876,000人のビジネスアナリシスの専門家が必要になると言われており、実際に求人サイト等でもビジネスアナリストの募集は増加傾向にあります。特にGoogleやAmazonといったITサービスを提供する企業や、金融・保険、EC系の小売りなどIT依存度の高い業界の企業ではビジネスアナリストのニーズが急増しています。このような状況を受け、ビジネスアナリストが普及している諸外国では組織的なビジネスアナリストの採用・育成が急務になっているのです。

※1:IRMUK

ビジネスに関するカンファレンス等を主催するイベント会社で、ビジネスアナリシスの他にもエンタープライズアーキテクチャやビジネスプロセスマネジメントに関するカンファレンスも主催しています。

ビジネスアナリストの育成モデル

欧州の企業では急増するビジネスアナリストの需要に対応するために、要件を満たす学生をインターン(現地ではアペレンティスと呼ばれています※2)として雇用し、一定期間をかけたトレーニングを行いビジネスアナリストに育成する取り組みを始めています。インターン生は大学卒業後にインターン先企業でビジネスアナリストとして採用されることを保証されていることがほとんどです。これは急拡大する社内からのビジネスアナリストの増員要請に応えるために、日本の新卒採用のように一定人数をまとめて採用・育成して継続的に社内に供給しようとする試みです。このインターンからの採用は安定してビジネスアナリストを供給できるほか、採用コストを安く抑えられるという利点もあるそうです(ある会社ではフリーランスを雇用することに対して雇用コストが6分の1程度まで下がったそうです)。これまでビジネスアナリストの採用市場といえば経験者を中途採用するか、フリーランス等を有期雇用することが主だったことを考えると、それほどビジネスアナリストの需要が高まり、また職業として普及していることが分かります。

※2:アペレンティス制度

イギリスを始め欧州の国では学生の職業訓練として見習い制度(アペレンティス制度)があります。行政と受け入れ先となる企業が連携して費用負担をしており、高等教育を受けている・または受けた学生は有償で一定期間の職業訓練を受けることが出来ます。元々は欧州の徒弟制度から始まった見習い制度ですが、近年ではITサービス向けの採用・育成が活発に行われているそうです。一般企業で見習いを育成することもあれば、見習い育成を請け負うトレーニングプロバイダー企業も存在し、GoogleやFacebookといった大手企業向けに人材を輩出しています。

ビジネスアナリストをインターンとして育成することに取り組んでいる企業は何社もありますが、基本的な育成のスキームは共通しているようでした。ビジネスアナリストの育成取り組みは、まず役割やスキルに対する「育成モデル定義」から始まります。その次にトレーナーとトレーニング受講者間での「育成モデルの理解」があり、その前提の上でOJT・Off-JTを組み合わせた「トレーニング」と一定期間ごとのメンターとの「アセスメント」を繰り返すことで専門性を育成します。新卒から育成する際の期間は概ね1年~1年半ほどが一般的だそうで、そこから先はビジネスアナリストとして自立していきます。

始めのステップである育成モデルの定義では、育成目標となる具体的なスキルとその成熟度のモデルを設定します。この際、欧州で広く活用されている国際標準のIT導入スキル「SFIA※3」などを自社向けに改編して活用することが多いようです。ビジネスアナリシスの教科書であるBABOKにもビジネスアナリストの基礎コンピテンシが掲載されていますが、具体的なテクニカルスキルに関してBABOKはほとんど提供していないため、SFIAを含めて他のスキル標準を参照しているとのことでした。

※3:SFIA(Skills Framework for the Information Age)

あらゆるタイプの情報システム関連の任務において管理業務または作業を行うための実務スキルを7つの役割ごとに構成したスキルフレームワークです。英国コンピュータ協会(BCS)の先導を受け、22年以上にわたる30団体のコンソーシアムによって作成されました。
参照:https://www.sfia-online.org/en

具体的な例を紹介すると、ある会社では育成モデルとして以下のスキルを定義しています。

【テクニカルスキル】

  • 情報収集のテクニック(必要な業務やソリューションの情報を収集するスキル)
  • ギャップアナリシス(あるべき業務と現行業務のギャップ分析を行うスキル)
  • ビジネスプロセスモデリング(業務設計を行うスキル)
  • 受入テスト(テストシナリオを作成して受入テストを実行できるスキル)
  • ステークホルダー分析とマネジメント
  • データモデリング(ソリューション設計に伴うデータモデリングを行うスキル)
  • ビジネス影響分析(取ち組みによってビジネスがどのような影響を受けるか分析するスキル)

【ソフトスキル】

  • ロジカル思考
  • クリエイティブ思考
  • 分析的思考
  • 問題解決
  • 自律的にワークを行うことが出来る
  • イニシアティブを持って取り組みを推進できる
  • 周囲と強調して取り組みを推進できる
  • コミュニケーション能力

会社によって定義している育成モデルは様々ですが、ソフトスキルはどの会社も比較的共通している一方で、テクニカルスキルは会社によって様々なようです。というのも、テクニカルスキルはその会社がどのようなビジネスアナリストを必要とするか…例えばデータ分析の出来るビジネスアナリストが必要なのか、情報システムを導入するためのビジネスアナリストが必要なのか・・・によって異なるためです。

どのようなタイプであろうと、ビジネスアナリストにはソフトスキル、テクニカルスキルの両方が求められます。教育というと一般的にテクニカルスキルの育成に偏りがちなイメージもありますが、振る舞いや姿勢、適した思考方法などソフトスキルが伴わないとビジネスアナリストとして一人前の仕事をすることは出来ません。ビジネスアナリストを育成する際にも難しいとされるのがこのソフトスキルの形成です。テクニカルスキルは何を学べば良いのか明確なため比較的短期間で学習可能ですが、ソフトスキルを育てるためには、ある特定の状況下でどのように振る舞うべきか、姿勢、思考方法はどうあるべきかを多くのお手本を見て学び、場数を踏んで血肉として、時間をかけて育成しなくてはいけません。更に最近では旧来型より強くソフトスキルが求められるアジャイルプロジェクトが増加したことにより、ソフトスキルの育成の重要性は増しています。

ゼロベースでビジネスアナリストを育成する

インターン生からのビジネスアナリスト育成に取り組んでいるある企業では、トレーニングはOJTだけではく、Off-JTの内容を工夫しながら行うことによって、テクニカルスキル、ソフトスキルの両面からしっかりと育成に取り組んでいました。会社によって比率は異なりますが、多いところではトレーニング期間の半分をOff-JTに割いているようです(少ないところでも2割はOff-JTに割いていました)。Off-JTでは例えばデータモデリングやプロセスモデリングといったテクニカルスキルに関する研修も実施していますが、ソフトスキルに関しても手厚くトレーニングを実施しています。座学やワークショップを通じた理解だけではなく、例えばトレーニーの指示のもと打合せでどのように振る舞うかロールプレイングしたり、上司の振る舞いをシャドーイングしたりといった実践的なトレーニングを行っています。その他にも、他のプロジェクトを訪問したり、部分的に参画したりすることでビジネスアナリストの仕事とはどの様なものか理解するといったトレーニングメニューもあります。

日本ではビジネスアナリストが専門職として認知されていないため、そもそも育成するための研修自体が少なく、また実質的にビジネスアナリストとして働いている人の育成もOJT任せになっており、研修もテクニカルな側面に偏っている傾向があります。一方、欧州ではビジネスアナリストが養うべきスキルモデルが企業の中できちんと定義され、それに基づいてテクニカルスキル、ソフトスキルの両面から育成するトレーニングメニューがしっかりと組まれていたことが私としては非常に印象的でした。

こうしたトレーニングは実施するだけではなく、成果に対するアセスメントも行われます。インターン生はOJT、Off-JTのトレーニングを積みながら一定頻度でメンターとのアセスメントを行います(事例で聞いた限りでは1か月に1回はメンターとの面談があるようでした)。その中で自身がどのスキルに強みと弱みがあるのかメンターとインターン生が双方向に評価し、評価結果に対して合意した上で次のトレーニング内容を決めます。アセスメントを行うメンターは、スキル開発や知識の提供だけではなく受講生のメンタルケアの機能も持っています。ビジネスアナリストはインターン生であってもプロジェクト単位で自立的に働くことが求められるため孤立しやすく、メンターやラインマネジメントによるケアが欠かせません。ビジネスアナリストを育成している企業の中にはインターン生のモチベーション維持をするために褒章やインターン卒業生のコミュニティを形成している企業もあります。

前編の最後はビジネスアナリストの見習いを育成しているある会社が「インターン生からゼロベースでビジネスアナリストを育成する際に重要視したこと」を挙げていたので紹介してみたいと思います。

【ビジネスアナリストを育成する際に重要視したこと】

  • 外部講師を含め、適したメンターを選定すること
  • アサインするプロジェクトを戦略的に選定すること
  • Off-JTの時間を確保することに管理部署がコミットすること
  • 何を学習すべきかトレーニング受講者にしっかりと提供すること
  • 社内の関係者に育成中であることを伝達し協力を得ること

これらの重要視したポイントを鑑みると、ビジネスアナリストを体系的に育成するためには成長を本人任せにせず、企業側が組織として育成するために労力を惜しまない姿勢を持たなくてはいけないことが分かります。もちろん育成される側の素質や学ぶ意欲といった姿勢が重要なのは大前提ですが、しっかりと育成していくためには、組織として育成環境を整えることが肝要と言えそうです。

なお、欧州の企業の多くが社内にインターンからのビジネスアナリストの育成体系を持っているわけではありません。むしろ大量のビジネスアナリストを必要とする金融・保険といった業界の中でも先進的な企業で近年始まったばかりの取り組みのようです。ただし、社内にビジネスアナリストのスキルアップを目指したトレーニングメニューを保持している企業は少なくなく、事例としてよく耳にします。また欧州には北米と同様にビジネスアナリストを育成する民間の教育サービスが多数あり、資格試験もいくつも存在しています。欧州に限らずですが海外の企業では多いところでは社内に数百から数千人のビジネスアナリストが所属しており、市場的にも多くのビジネスアナリストが存在します(求人サイトであるLinkedInでビジネスアナリストを検索すると嘘か真か200万件ほどヒットします)。国際的にみると、それだけのビジネスアナリストを支える育成基盤が既に確立されていると言えます。その中でも人材育成を社内で主体的に行う欧州は特に育成能力が高いと言えるかもしれません。

以上、「Business Analysis Conference Europe 2018」のレポート前編でした。後編ではビジネスアナリストのマネジメントに関する取り組みについてレポートしたいと思います。

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