人間関係の中で「魅力的な人」とは ビジネスシーンで使える行動心理学③のサムネイル
ワークスタイル

人間関係の中で「魅力的な人」とは ビジネスシーンで使える行動心理学③

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2018年5月に掲載されたものを移設したものです。

こんにちは、LTSコンサルタントの大山あゆみです。前回の第2回ビジネスシーンで使える心理学では、相手の不安を感じ取る瞬間について解説をしました。

今回は、新しい人との出会いが多い春ということで、「対人魅力」についてみていきたいと思います。

対人魅力(Interpersonal Attraction)とは「ある個人の他者に対する感情的評価を表す構成概念である(Byrne&Griffitt,1973)」と定義されています。分かりやすく言うと、人間の相手に対する魅力(好意/嫌悪)のことです。これには、これまでわたしが解説をしてきた

心理学の内容に、社会心理学の要素が加わります。社会心理学とは、社会的環境の中で個人や集団がどのような条件のもとでどのような行動を示すかについて研究する分野です。

わたしたちは普段の生活ではもちろん、ビジネスの場でも様々な人と関わりを持ち、人間関係を形成しています。その中で、この人とは仕事を続けていきたいな、この人は魅力的なビジネスパーソンだな、と感じることがあると思います。

なぜわたしたちは、相手に対して魅力を感じるのでしょうか。また、どのような相手に対して、魅力を感じることが多いのでしょうか。

そもそも、人間関係のベースになっているのは、相手に対して「好意」を抱くことができるかどうかです。
初対面で不快感を抱いてしまうと、その後の関係構築にはかなりの時間と努力が必要になりますが、相手に対して好意を抱くと「この人を知りたい」「一緒に居たい」という思いにつながり、お互いのことを理解しあい、お互いが歩み寄りながら、豊かな人間関係を築くことができます。

つまり、相手に好意を感じてもらえるような魅力を持っている人は、良好な人間関係を構築しやすいということになります。みなさんも、実際に知り合った人の中には、その後長いお付き合いになっている方と、そうでない方に分かれる…ということがありませんか。ビジネスの中でも、お客様や共に働くメンバーとの間に良好な人間関係を構築するということは、とても重要なことだと思います。

では、良好な人間関係を築くためには、どのようなことが必要なのでしょうか。

対人魅力に必要な要素は、多くの研究者が様々な観点から論じていますが、今回は私なりに6つの要素にまとめてみました。これからその6つの要素について解説し、相手から魅力的だと感じてもらうには、どのようなコンタクトが必要か考えていきたいと思います。

解説の中で、実際にわたしが実践していたこと、また、周りの人の実践例を紹介します。これらの要素をうまく利用し、良好な人間関係構築のお役に立てれば幸いです。

対人魅力

要素①近接性

一つ目の要素である「近接性」とは、物理的な距離が近い人と親しくなりやすいことを指します。

例えば、小学校や中学校に入学したとき、最初に仲良くなったのは席が近い人や出席番号が近い人ではなかったですか。このように物理的に距離が近い人に対して、好意を感じやすくなるのは、挨拶をしたり話をしたりする機会が多く、相互作用が生じるためです。物理的な距離が遠い人より近くにいる人の方が親しくなりやすく、これは単純接触効果が働くためだと考えられています。

単純接触効果とは、単に接触する回数が多ければそれだけ好感をもつという心理的効果のことです。月に一度しか顔を合わせない人よりも、毎週または毎日顔を合わせる人の方が親しみを感じるのは、この単純接触効果によるものです。

この要素を高めるためには、物理的に近い距離にいる相手に、積極的に挨拶をしたり話かけたりすることが有効です。実際にわたしがコンサルティングの現場で実践していたのは、朝の挨拶を毎日欠かさないことです。入社一年目で「毎朝挨拶をしてくれる大山さん」としてお客様に覚えて頂いているのを知った時は嬉しかったです。「近接性」とは、物理的な距離が近い人と親しくなりやすいとご説明しましたが、物理的に遠い距離にいる相手でも、こまめにコンタクトを取ることで単純接触効果が期待できます。

要素②類似性

二つ目の要素である「類似性」とは、自分と似ている人に親しみを感じることを指します。

例えば、考え方や物の見方が似ている人、同じ学校の出身である人、同じ趣味を持っている人には、無意識に親しみを感じることが分かっています。みなさんの社内に〇〇の会や、〇〇サークル、などの交友会はありませんか。

これらのことは、①自分の意見が他者と一致しやすいこと(合意的妥当性) ②同じであることそのものに安心するということ(社会的動物である人間の習性) ③相手のことを理解しやすいこと、の三つがベースになり、人間関係を形成する際に強く作用します。”グループ内のメンバーで共通項を探してみましょう”というアイスブレイクは、類似性を高めるためにとても効果的だと言えます。

この要素を高めるには、相手との共通項を探してみるのがいいでしょう。出身校や趣味をはじめ、出身地や好きな本・好きな食べ物などを自己紹介の場などでアピールしてみるのもいいですね。もちろん、相手の情報を引き出すことも忘れないようにしてください。

実際にわたしの先輩は、現場で積極的にこのような自己開示をしていました。「学生時代陸上をしていました」「ビジネス本や自己啓発の本をよく読みます」「実はよくこたつで寝てしまうんです」など、相手に自分のことを知ってもらうことは、相手から親しみを持ってもらうことにつながります。

要素③相補性

三つ目の要素である「相補性」とは、自分が持っていない部分を持っている人に魅力を感じることを指します。

要素②の類似性とは逆(自分と似ていない人に親しみを感じる)ととらえられてしまいますが、この相補性では特に役割に重点を置きます。例えば、チームで仕事をする中で、リーダータイプ(チームを引っ張るタイプ)とサポータータイプ(リーダーの支えになるタイプ)という異なるタイプの人同士はお互いに魅力を感じやすいということです。研究の中でわかっているのは、特に長期にわたる関係性にはこの相補性が重要になりますが、振る舞いや考え方については基本的に類似している方が好ましいということです。

この要素を高めるには、お互いの強みと弱みを確認し合うのがいいでしょう。そうすることで、二人以上の人間関係の中で強みと弱みを相互に補完し合うことができ、物事を円滑に進めることができます。

実際にわたしがプロジェクトに配属された時、メンバー同士で強みと弱みの話をしたことがありました。そこでお互いに補完できることは何か、自分のパフォーマンスを最大限発揮できるようにするには、といったことについて意見交換ができたことは、その後の業務を進める中で非常に役立っていたと思います。

要素④熟知性

四つ目の要素である「熟知性」は、ザイアンスの法則とも呼ばれ、相手のことを知れば知るほど魅力を感じることを指します。

これは、特に対人関係における単純接触効果のようなものだとされていますが、要素①で説明をした単純接触効果との違いは、相手に関する情報の有無にあります。要素①で出てきた単純接触効果では、単純に相手と顔を合わせる回数や間接的な接触等が多いことで親しみを感じますが、この要素④熟知性では相手のことをよく知る必要があります。

この要素を高めるためには、相手のことをよく知ること/自分のことをよく知ってもらうことがいいでしょう。この熟知性を高めるということは、要素②の類似性や、要素③の相補性を高めることにもつながります。逆に相手から魅力的だなと感じてもらうためには、自分のことを相手によく知ってもらう必要があります。ここでも、自己紹介で積極的に自己開示をしたり、日々のコミュニケーションの中で相手や自分のことを知る機会を多く設けたりすることが大切です。

わたしはお客様と休憩時間やランチの際に「何となくおしゃべりした内容」をきちんと覚えるようにしていましたし、お客様がわたしの話したこと、好きな本や出身地を覚えてくださっていた時は嬉しかったです。同じ現場でプロジェクトを進めているからこそのお客様との近さを感じました。

要素⑤返報性

五つ目の要素である「返報性」は、何かをしてもらったらお返しをしたくなることを指します。

ビジネスの中で、特にマーケティングや営業で使われる手法ですが、今回は対人関係に絞ってみてみます。これは、相手に大切に思われている感覚や、助けてもらうこと、何かを与えられるなどの喜ばしいことは、相手に返してあげたくなることです。

例えば、「あの人はいつも自分たちの困りごとを解決しようと努力してくれている、こちらも何らかの形で応えなければ!」と思うような場面です。これは、感情や気持ちでも同じことが言えるため、「自分は相手に大切にしてもらっている、だからこちらも相手を大切にしなければ!」と感じるのです。しかし、自分はこれだけやったから、相手もこれだけ返してくれるだろう、という風に見返りを求めてはいけません。日本の「おもてなしの文化」に似ていますね。

この要素を高めるには、相手にしてほしい・感じてほしいと思うことを、まずは自分で実行することがいいでしょう。もちろん、相手に負担にならない程度にです。

わたしが初めて現場に配属された時、「お客様に自分のことを覚えてほしい」「お客様に信頼してほしい」…と考えていました。そのためにはどうしたらいいのか、そこで出てきたのがこの返報性の考え方です。お客様に自分のことを覚えてほしいのであれば、まずは自分がお客様のことをよく覚えること。お客様に信頼してほしいのであれば、まずは自分がお客様と真摯に向き合い信頼関係を築くこと。当たり前だけれども、なかなかできないこともあると思います。これは、時間をかけてゆっくりと高めていく要素でもあるかもしれません。

要素⑥身体的魅力

六つ目の要素である「身体的魅力」とは、その人の「見た目」の魅力のことを指します。

「人を外見で判断してはならない」とよく聞きますが、研究データによると、わたしたちは身体的・外見的な魅力の高い人に好意を抱きやすい習性を持っています。それぞれが生まれ持っている魅力もありますが、わたしたちは外見を飾ることができます。

なんだかヨレヨレの服を着ている人よりも、ピシッとシャツを着ている人の方が信頼できそうだな、と感じたことはありませんか。また、髪の毛はボサボサよりも、きちんとしている人の方が魅力的ですよね。これは相手へのマナーですが、常にTPOを考慮した外見であることは、魅力にもつながるということです。

このような外見の魅力には、外見以外(地勢・地位・幸福など)も望ましいことが期待される「光背(ハロー)効果」が働きます。

この要素を高めるには、相手に目に見える情報として伝わるような箇所(服装・髪型・表情)には気を配るようにするのがいいでしょう。当たり前のことのように感じますが、たまに手を抜いてしまうこともありますよね。しかし、アメリカのUCLA大学の心理学者アルバート・メラビアンが1971年に提唱した概念の「メラビアンの法則」では、人の第一印象は初めて会った時の3~5秒で決まり、その情報のほとんどを視覚情報から得ていると言われるほどです。

わたしたちが想像している以上に、見た目というものは相手に強い印象を残しています。わたしも身だしなみには、常に気を付けています。

※光背(ハロー)効果:社会心理学の現象で、ある対象を評価する時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる(バイアス)現象のこと

まとめ

わたしたちは他者と関わることにより、「自尊心」と「対人的な信頼感」の2つを獲得できると言われています。

「自尊心」とは、自分を全体的にとらえたときに感じられる好ましさや、自分のことを価値のある存在だと思う感覚のことです。人間は他者からの評価によって自分の価値を見出すため、人間関係を持ち他者から評価されることで自尊心を高めることができます。

一方で、「対人的な信頼感」とは、他者から見捨てられることなく、他者のことを心から信頼できる感覚のことです。このような信頼感は、人間の存在価値を最大限に高めてくれます。この2つの感覚は、人間の「自分に対する肯定的な情報を得たい」という欲求を満たしてくれます。

そのため、人間は他者との間に人間関係を構築していくのです。

しかし、人間関係は難しいなと感じる人も多いのではないでしょうか。あの人は自分のことをどのように考えているのだろうか、あの人とはどのように接したらいいのだろうか、と考えたことはありませんか。自分の周りにいる人の中で「自然と周りに人が集まってくるような魅力的な人」をよく観察してみると、上記6つの要素を自然と高めているような人かもしれません。

今回は、人間関係における「魅力的な人」を6つの要素に分解して解説しました。

わたしたちLTSのコンサルタントも日々、お客様と肩を並べてプロジェクトを進めています。嬉しいことにお客様から「担当者の人柄の良さ/親しみやすさ」「関係者との円滑なコミュニケーション力」「相手の意図を察知する共感性」について評価をいただいています(参考:お客様から見たLTS)。「魅力的な人」になるにはどのようなことを実践したらよいのか、今回のコラムを参考に考えて頂けたら嬉しいです。

次回は、目から読み取る相手の心理を行動心理学の側面から解説予定です。今回もお読みいただき有難うございました。


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)