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プロセス変革・業務改革

業務とは何か(その1-業務の基本) ビジネスプロセスの教科書⑪

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を再掲載するものです。

当コラムは、書籍『ビジネスプロセスの教科書(東洋経済新報社(2015年7月24日)』に掲載しきれなかった内容をご紹介しております。

書籍では、ビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。また、著者がこれまでにお客様企業の現場で経験してきたビジネスプロセス変革の事例も多く紹介しています。ユーザー企業側で組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方はもちろんシステム開発やアウトソーシングベンダーの担当者の方も必見です。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。ビジネスプロセスの教科書のこぼれ話第11回です。前回のコラムから大分、間が空いてしまい申し訳ありません。さて、今回は業務を考える上での成果物(アウトプット)の大切さと、成果物の観点から見た生産現場とホワイトカラーの仕事の違いについてです。

業務の基本構成要素

まず「業務とは何か」ということについておさらいします。業務とは、インプットとなる物や情報を、何らかの処理を通じてより価値のある状態にして送り出す行為を指します。この送り出す物や情報をアウトプット(成果物)と呼びます。インプットとアウトプットにあたるのは人、物、金、そして情報です。組立作業は部品という物を製品という物に変えてアウトプットしていますし、会計処理は情報を処理して、さらに付加価値のある情報をアウトプットしています。そして各アウトプットは他の業務のインプットとして活用され、この連鎖は最終的なアウトプット(製品やサービス)がお客様に届くところまで続くというわけです。このような業務の基本となる三要素、インプット(Input)」「処理(Process)」「アウトプット(Output)」を略して「IPO」と呼びます※1

※1 実際にはこの他にIPOの他にも業務の方針や制約を示す「ガイド」や、ツールや人員といったで業務を支援する「イネーブラ」という要素もあります。これらはまた別のコラムで説明したいと思います。

業務設計はまずアウトプットの定義から

業務を設計する際は、まずプロセスのアウトプット、つまりお客様に届ける価値を明確にすることが大切になります。アウトプットが価値ある状態になっているかどうかを決めるのは、プロセスの実行者ではなくアウトプットを受け取る人になります。これがプロセスの「お客様」です。対価を頂く直接のお客様であることもあれば、アウトプットを受け取ってさらに後続の処理を行う後工程の担当者であることもあります。

価値あるアウトプットを送り出すことが業務の使命ですから、アウトプットの種類やパターンが多ければ、プロセスは複雑にならざるを得ません。例えば一種類のPCをセットアップするのに三種類の手順がある場合は、この手順は統合可能です。しかし、三種類のPCをセットアップしたければ、途中いくつかの手順は共有できるとしても、最終的には三種類の手順が必要になります。

業務を効率化するためにはアウトプットのパターンに着目する

そのように考えると業務効率化を考える際には業務フローを眺めてその手順の効率化を考えるよりも、まず「そのアウトプットは本当に必要か」「そのアウトプットは正しい姿なのか」を明確にすることが大切になります。例えば先ほどのPCセットアップの例で考えてみます。

社内の情報システム部門がユーザー部門からの要求に従って、多種多様なPCのセットアップサービスを行っているとしましょう。そしてあまりに複雑なセットアップの負荷をもっと減らしたいと思っているとします。この場合、以下のような観点でセットアップパターンを減らす(時に増やす)ことができます。

  1. 業務上、多くの人に必須のソフトウェアで、かつインストール工数が高いものはこのままセットアップサービスで対応した方が(全社の)効率が良い
  2. ごく一部の人しか使わず、インストールが簡単なソフトウェアはセルフサービスにした方が、事前の確認の手間などもいらず(全社の)効率が良い
  3. 現在インストールしているが、全社的に見てほとんど利用実績のないソフトウェアはそもそもインストール自体がムダ
  4. 逆に現状ではユーザーが個人でインストールしているが、利用者が増えておりトラブルも頻発しているので、訓練された人が対応した方が良いソフトウェアは、セットアップサービスのメニューに加えた方が(全社の)効率が良い(そんなソフトがあるのかはともかくとして)

このような結果を業務手順(フロー)に反映すれば必然的に業務はより効率的・効果的なものになるでしょう。ここで行っている分析は業務手順の分析ではなく、業務のアウトプットであるPCの状態(セットアップ完了状態)の定義です。このように業務の分析ではまずアウトプットの定義をしっかり行うことが大切になるのです。上記の4番目のケースのように、しっかりアウトプットの定義を行うと、付加価値向上のためには業務手順が増えるケースもあります。手順が増えてもそれに見合った価値を得られるのであればこれも「効率化」です。効率化とは決して時間や労力の削減だけではありません。

生産現場と事務処理現場の業務特性の違い

しかしながら、このようなアウトプットの定義を行わずに業務手順にばかり着目した効率化の検討が行われているケースを見かけることがあります。「業務の見える化」には「アウトプットの見える化」も「業務手順の見える化」も含まれるはずなのですが、なぜか「業務手順の見える化」、つまり業務フローの作成ばかりにエネルギーを注ぐ例が多いのです。なぜこのようなケースが多いのか、私は生産や物流といった「モノ」が関わる現場における業務改善手法がそのまま事務処理の現場にも持ち込まれていると感じることがあります。

BPMは歴史的に製造業の生産現場における品質向上や生産性向上活動に起源があります。このような考え方がBPRに代表されるプロセス志向の考え方と組み合わさって2000年前後にBPMという考え方に進化しました。未だ「業務改善」というとトヨタのような製造業の取り組みを思い浮かべる方も多いでしょう。ですからBPMで活用される手法にはこれらの現場から持ち込まれてものが多いのです。しかし生産や物流の現場における業務改善と、ホワイトカラーの業務改善には実はいくつか違いがあります

生産や物流の現場では文書化する前からプロセスは物理的なラインとして見えています。各部署、個人の受け持ち業務も生産ライン上で分かれているので比較的、明確です。さらに原則として生産現場は製品の仕様を自ら考えることはなく、また勝手に変えることもありません(それらは設計の仕事です)。つまり生産現場はアウトプットとインプットが明確で、業務手順や役割分担もある程度は「見えている」状態がスタートラインにあって改善活動を行うことが出来るのです。もちろん機械設備が行っている細かい処理などは文書化しないと分からないですし、全てが見えているわけではありませんが、ある程度は自然に共有された認識の中で議論をスタートできるので、アウトプットではなくプロセス(工程)の改善により注力できるのです。

事務処理の現場ではアウトプットの認識統一が重要

これに対して事務処理(ホワイトカラーの仕事)はそうはいかない場合があります。生産現場で自分が生み出しているものが何かを知らないで作業しているケースはありません。ネジ一本の組み付けでもそれが製品を作る上で必要な工程であることは見て分かります。ところが事務処理の現場では「言われた処理をしているだけで、このアウトプットが何に使われているのか知りません」ということは決して珍しくはありません。全体の工程を知らず、ただ伝票をシステムに入力しているだけの仕事をしていたら、その「仕事の価値は?」と言われても、なかなか答えられないでしょうね。

そもそも事務処理、特にIT化された現場では情報(生産現場における製品に相当)はネットワークの中を流れていて見えません。生産や物流の現場ならラインを眺めているとなんとなくどこで何をしているか分かるでしょうが、事務処理の現場で皆が黙々とパソコンに向かっている姿をみても何をしていて、何がどこを流れているのか、どんな役割分担で誰が何をしているのかさっぱりわからないのです。

さらに言うと、事務処理の現場で生み出されるアウトプット(帳票や報告書)には、(大変残念なことに)そもそも作る意味が不明確なものも含まれていることがあります。例えば毎月、担当者が精緻な会議資料を作っているとします。ところがその会議資料は実際の会議では必ずしも参照されず、特に議論にもあがらないということがあります。作っている担当者が必ずしも会議参加者でもないと、そんなことは知らずと毎月毎月黙々と作業します。さらには「あちらの部署の依頼」とか「経営から言われたから」とか、目的もよくわからずに管理帳票がどんどん増えたりします。このような症状は成果物の定義、つまり作る目的や求められる姿を十分に理解していないことから起こります

よって事務処理の現場こそ、まずは「そのアウトプットは本当に必要か」「そのアウトプットは正しい姿なのか」に立ち戻らないといけません。しかし、生産や物流の現場におけるアウトプットは目に見える「モノ」ですが、ホワイトカラーの現場での成果物は多種多様です。例えば(紙の)帳票、インターフェースで他システムに流している情報たち、画面に表示される項目、各種の管理票やチェック表などなど。時にはシステム内など自分たちの目に見えないところをアウトプットが流れているので、効果的に議論するためにはこれらを文書化し、アウトプットの認識を関係者で統一しなければいけないのです。

まとめ

業務設計や業務改善と言われると、業務フローを書き工程や手順を分析しているイメージがありますが、まずはアウトプットの定義がしっかりなされている必要があります。いわゆる「ECRS※2」といった「業務フロー分析」はこのようなアウトプットを明確にし、それらのアウトプットが真に必要だと関係者で合意された後に行う仕事です。業務フローは業務の流れと役割分担に着目した書式なので、実はアウトプットの詳細な定義を確認するには向かない資料です。ですから、帳票設計書、データ定義書といったアウトプットの定義に力点を置いた資料も業務改善には必要になります。「業務改善はまず成果物の定義から」を徹底して、自分たちの業務を見直してみてください。

※2 ECRS:プロセス分析の観点の総称で「削減(Eliminate)」「結合(Combine)」「順序変更(Rearrange)」「簡素化(Simplify)」の頭文字です。

ビジネスプロセスの教科書

本書ではビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。あらゆるビジネスパーソンにとって有益な一冊となっていますが、中でもこれから組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方には特に参考になる内容が詰まっています。

著者:山本 政樹
出版社:東洋経済新報社(2015年7月24日)