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プロセス変革・業務改革

業務とは何か(その3-業務の目的と目標) ビジネスプロセスの教科書⑬

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を再掲載するものです。

当コラムは、書籍『ビジネスプロセスの教科書(東洋経済新報社(2015年7月24日)』に掲載しきれなかった内容をご紹介しております。

書籍では、ビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。また、著者がこれまでにお客様企業の現場で経験してきたビジネスプロセス変革の事例も多く紹介しています。ユーザー企業側で組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方はもちろんシステム開発やアウトソーシングベンダーの担当者の方も必見です。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。ビジネスプロセスの教科書のこぼれ話第13回です。今回も前回前々回に引き続き「業務」という言葉に含まれる要素をひも解いてみたいと思います。前回までのコラムで「インプット」「アウトプット」「ガイド」「イネーブラ」という業務手順(フロー)をとりまく要素についてお話してきました。今回は業務の「目的と目標」について語ってみたいと思います。

業務の目的と目標とは

全ての業務には目的と目標があります。この二つは業務改善においては大変重要な要素です。なぜなら業務改善(ないし変革、改革)とは、目標に向けて組織の業務遂行能力を高める活動を指すからです。そして目的は目標を立てる上での基本的な指針を示します。

以下に一般的な管理会計業務の目的と目標の例を示します。

【目的】
高精度の業績状況を迅速かつ効率的に提供し、経営者の迅速な意思決定に寄与する

【目標】
現状では月次の集計サイクルを、2017年までに日次とする。またオペレーションコストを2017年までに30%削減する。

「目的」と「目標」の違いを語るのは難しいですが、一般的なニュアンスとして、目的はその業務が存在する限りは変わらない普遍的な存在価値を示します。これに対して目標とはその目的に沿った中で、あるタイミングまでにどのような状態を目指すかという時限的な到達点を示します。上記の例でも目的が静的な記述なのに対して、目標は具体的な数値とその達成時期が明記されており動的な記述となっています。

目標設定のヒントは目的の中に隠れています。上記の例でも目的中の「迅速(に)」というキーワードから、「月次の集計サイクルを、2017年までに日次」という目標(到達点)を設定しています。また「効率的に」というキーワードに対しては「オペレーションコストを2017年までに30%削減」という目標を設定しています。

ここでは「高精度」というキーワードに対しての目標は示されていません。2017年までの目標では精度は現状のままで良いという判断なのでしょう。ただ2018年以降の目標では今度は「予測精度を高める」という目標が設定されるかもしれません。このように目的は普遍的で網羅的な記述、目標は時限的で達成すべき事項に注力した記述になることが分かるかと思います。

そして目標の記述の中で到達点を測る尺度を定量的に表したものが「KPI」です。ここでは「業績集計サイクル(リードタイム)」と「オペレーションコスト」というKPIが設定されており、それぞれ「日次」と「30%削減」という目標値が設定されています。

問題よりも、まずは目的と目標を明確にする

業務改善を進めようとすると、真っ先に「業務の問題は何か」という議論をしてしまうことがあります。しかし「問題」とは、目標の姿と現状とのGAPを指す言葉ですから、関係者の間で目標に合意してなければ、何が問題なのか誰も判断できません。逆に目標と現状の認識が関係者で合っていれば、自然と問題は明確になっていきます。その意味では問題は「見つける」ものではなく、「見つかる」ものと言うこともできます。

このように問題を明確にするためには、目的と目標、そして目標を達成した業務の姿とはどのようなものか、という議論を丁寧にする必要があります。さきほどの例だと日次で業績情報を集計しようとしたら、販売の最前線の情報を速やかにシステムに入力し(いわゆる発生源入力)、集計を自動化するプロセスと基盤が必要です。もし現状がエクセルなどのスプレッドシートなどを使って人力で収集、集計していたらまず間違いなく目標は達成できません。また、効果的にシステム化されている状態があるべき姿であるのなら、人が属人的な判断で集計をしている状態を標準化し、ルールを明確にする必要も出てきます。こうやってあるべき業務と現状の業務の姿を比べると「集計が人力で時間がかかっている」「集計ルールが標準化されていない」といった事象が「問題」が浮かび上がります。そして「日次集計を可能にするためのプロセスとシステムの再構築を行う」ということが「課題(やるべきこと)」となります。

正しい目標設定には業務の目的をしっかり議論する

このように業務改善とは目的、目標(+KPI)、問題、課題の順で明確にしていくことが基本です。スタートラインとなる目的の議論は大変重要なのですが、これが意外とやっかいです。

ある通販会社の物流プロセスにおける入荷検品業務の目的と目標について担当者と議論しました。入荷検品業務とは、サプライヤーから到着した商品の数量や品質に不備がないかを確認し、検収を行う業務です。以下は、当初担当者が設定した目的と目標です。このケースでは目標とKPIは別の項目として記述しています。

この記述を見て皆さんはどう思われるでしょうか。これは残念ながら良い目的や目標の記述ではありません。ざっと見て以下のような課題があります

  • 目的の記述が業務概要と変わりない
  • 目標やKPIの観点が網羅的に記述されていない
  • 目標の記述が網羅的でないため、必然的に問題も網羅的でない

この記述の最大の問題は、この業務の最も重要な目的が記述されていないことです。検品業務は「検」の字がつくことからも分かるように商品をチェックし、不備を取り除くための仕事です。しかし修正前の記述には「お客様に不備ある商品を出荷することを防ぐ」といった観点が記述されていません。また不備ある商品のしっかり取り除くことは「本来検収してはいけない商品の受け入れを防ぎ、会社の損失を防ぐ」という目的もあります。結果的にこれらに対応したKPIも設定されていません(目標にかろうじて「不備なく検品する」という記述がありますが、KPIには意識されていません)。そのような点を指摘しながら、1時間ほど担当者と議論をして修正した記述が以下です。

ぱっと見ても文字数がかなり増え、「不備検知」というこの業務の本来の目的が加わりました。また、目的だけでなく業務概要をより細かく書き、業務の認識を合わせて議論したことで「加工漏れを発生させない」という新たな目標の観点も加わりました。ここで言う加工とは、10個単位の商品をばら売りするために、開封して一個一個にラベルを貼るといった作業を指します。

そして、目的、目標、業務概要がしっかり書けるようになるとKPIの見落としや、問題の見落としも見えてきました。これまでは不備検知に関するKPIが漏れていました。そもそも不備検知を気にせず、単に生産性のみをあげたいのであれば検品業務は失くしてしまえばよいはずです。この業務の最も大切なKPIは不備検知であり、不備検知の機能を果たした上で、生産性をしっかりあげていくことが大切になります※1

※1 実は不備検知数というKPIは入荷検品プロセスでは計測できません。検品漏れが見つかるのは後続の出荷プロセスやお客様からの返品問い合わせに対応するプロセスなので、こちらのプロセスにKPIの提供を依頼する必要があります。

担当者は日々業務に追われる中でとにかく目前の業務を素早くこなし、担当業務が全体のボトルネックにならないことに頭を奪われていました。このような議論を経ることで、担当業務の目的を再認識できたのです。

業務の目的を正しく記述するコツ

目的はしっかり議論して書くと「なんだ、こんなの当たり前じゃないか」と思う記述になることが大半です。しかし、何も状態からしっかり目的を定義することが意外と難しいことがあります。これは担当している業務のことしか知らず、自らの業務の価値をどこに届けているのかをよく理解していないためです。

目的を記述する際のコツは、該当業務の中身に着目するのではなく後工程に着目することです。つまり、「その業務の次の工程や、さらにその先にある工程(最終的にはお客様」にどのような価値を届けるのか」という観点で考えるのです。さきほどのケースだと「お客様に不備ある商品を出荷しない。」が本当の業務の目的です。このように業務の目的とは「~することによって、(誰か/何か)にXXという価値を届ける」という記述にすると分かりやすくなります。「誰か/何か」の部分には人や組織、後工程のプロセスの名前が入ります。

この際、価値を届ける先である「誰か/何か」を正しく認識するには、業務フローが役に立ちます。ただしここで言う業務フローとは、議論対象の業務を含むプロセス全体の流れです。さきほどの例では、1時間の議論でもかなり深まりましたが、その後さらに業務全体の流れを意識して入荷検品プロセスの目的を考えると最終的には全部で五つもの価値の届け先、つまり目的が見つかりました。

このように考えると入荷検品業務の目的とは以下のようになります。

入荷した商品の商品品質が担保されていることを迅速に確認することで・・・

  1. お客様に不備やリスクのある商品をお渡ししない
  2. 出荷時の不備発見を防ぎ、出荷プロセスの整流化に寄与する
  3. 速やかに出荷可能にすることで、機会損失を防ぐ
  4. 不備商品の検収で発生する無駄なコストを防ぐ
  5. 返品対応コストを抑制する

このようにビジネスプロセスの全体像から、最後はお客様に価値が届くところまでを思い浮かべながら考えると業務の目的を効果的に整理することが出来ます。この目的がしっかり書けると業務の目標に関する議論が進めやすくなります。次回のコラムでは目的を元に目標とKPIを設定する流れについて解説します。


ビジネスプロセスの教科書

本書ではビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。あらゆるビジネスパーソンにとって有益な一冊となっていますが、中でもこれから組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方には特に参考になる内容が詰まっています。

著者:山本 政樹
出版社:東洋経済新報社(2015年7月24日)