LTSコラム

アジャイルへの適用を迫られる海外のビジネスアナリスト(前編)~BBC2017から見るビジネスアナリシスの最新動向~

こんにちは。LTSの大井はるかです。昨年に続き、今年もIIBA(International Institute of Business Analysis)の年次カンファレンス、BBC(Building Business Capability)に参加してきました。BBCは世界中のビジネスアナリストが集まる一大イベントで、有識者によるチュートリアルや120以上の個別セッションを通して、ビジネスアナリシスに関するトレンドやノウハウの共有が行われます。本コラムでは、BBC2017の様子から、世界のビジネスアナリストが今何を見て、どんなことを考えているのかをお伝えしたいと思います。

 

BBC2017の様子。今年は29か国からビジネスアナリストが集まりました。

BBCは世界のビジネスアナリストのネットワーキングの場

今回参加したBBC(Building Business Capability)は、IIBAという団体が毎年秋に開催する国際的なカンファレンスです。IIBAはビジネスアナリシスの普及団体で、ビジネスアナリシスの知識体系「BABOK」の出版や、CBAPやCCBAといったビジネスアナリシスの資格試験を提供しています。IIBAの本部はカナダですが、北米を中心に南米、アジア、インド、西欧、アフリカなど世界112か所に支部を持っており(日本にもIIBAの支部があります)、世界中のビジネスアナリストがIIBAの会員に登録しています。

日本ではビジネスアナリストという職種があまり定着していないので耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。ビジネスアナリストとは主にIT導入における業務分析(ビジネスアナリシス)を生業とする人達のことで、ビジネス部門の要求開発の支援、業務設計、出来上がったシステムの受入テスト、現場への教育などを行います。所属は企業のビジネス部門、IT部門、ソフトウェアベンダーなど様々で、地域差もありますが、大半は企業のIT部門ないしビジネス部門に在籍し、自社の業務変革を推進しています。

もともと、ビジネスアナリシスはIT導入の上流工程から生まれたもので、IIBAに集うビジネスアナリストもIT領域を専門とする人が多いのですが、最近はIT導入の有無に関わらずビジネスプロセスマネジメント領域全般の業務分析をビジネスアナリストが担うようになってきています。日本では、IT部門の保守・開発担当者、ソフトウェアベンダーのSE、ITコンサルタント、経営企画室やCS部門といった横断部門にて業務改善を行う人などがビジネスアナリストの役割を担っています。

BBCでは、そのような人たちが世界中から一堂に集まり、5日間にわたるチュートリアルやセッションを通して、他社事例や最新動向の情報収集、スキルアップに向けたワークショップへの参加、ビジネスアナリスト同士での情報共有を行います。IIBAの活動拠点が北米のためBBCの開催地はほぼアメリカで、昨年はラスベガス、今年はオーランドで開かれました(ちなみに来年はテキサスのサンアントニオだそうです)。

BBC2017のコミュニケーションスペースでのネットワーキングの様子。

今年のテーマはアジャイルメソッド

BBC2017の主要テーマは「アジャイルメソッドの活用」でした。2014年頃から世界的に企業が経営上のより広い領域にアジャイルメソッドを適用する議論がかなり活発になっていて、実際にアジャイルメソッドの導入を進める企業が増えてきています。その影響を受け、ビジネスアナリシスの世界でもアジャイルメソッドがホットトピックとなっているようです。

ここで言うアジャイルメソッドとは、スクラムに代表される、いわゆるシステム開発方法論だけを指すのではなく、経営の意思決定そのものを俊敏に行うための、より包括的なメソドロジーを指します。組織全体がアジリティをもって外部環境に適用していくために、“アジャイル”という言葉の適用範囲が、開発工程から要求開発ひいては経営の意思決定レベルやマネジメント領域まで広がってきているのです。ここから先でアジャイルメソッドという言葉が何度も登場しますが、それらは従来のアジャイル開発方法論を超えた、「アジャイル変革方法論」くらいのニュアンスで受け取ってください。

 

アジャイルメソッドは従来の開発方法論よりも包括的な範囲を示す。

 

日本でアジャイル開発方法論を導入している企業は全体の3割程度と言われていますが(※2)、北米のツールベンダーが行った2016年度のリサーチによると、国際的には既に94%の企業が部分的にアジャイル開発方法論を導入し、うち8%では組織レベルの変革手法としてのアジャイルメソッドを導入しています(※3)。このリサーチはツールベンダーによるものではありますが、他の調査資料を見てもこの調査結果は然程大げさな数字ではなさそうです。

このような変化に伴い、ビジネスアナリシスの世界でも「アジャイルメソッドの活用」が喫緊の課題となっています。特に2017年はIIBAが『Agile Extension to the BABOK Guide Ver2.0』を出版したり、ビジネスプロセスマネジメント界の重鎮であるロナルド G. ロス、ロジャー・バートン、ジョン・ザックマンが連名で『The Business Agility Manifesto』を発表したりするなど、ビジネスアナリシス界隈でアジャイルメソッドに関する話題の多い一年でした。BBC2017でアジャイルメソッドへの注目が高かったのにはこのような背景があります。

実際に会場で各国のビジネスアナリストと話してみても、皆一様にアジャイルメソッドに強い関心を持っており、勤務先の導入状況を伺うと「アジャイル(開発方法論)を部分的に導入している」「「アジャイルメソッドの導入を進めている」と回答していました。現時点ではアジャイルメソッドを導入できている企業はまだ少数ですが、導入に向けた取り組みを進める企業は増えてきており、どのビジネスアナリスト達も遠くない未来にアジャイルメソッドへの適応することは避けられないと考えていました。

BBC2017で行われたアジャイルに関するセッションも、「SAFe(※4)の具体的な導入事例」、「アジャイルメソッド導入後のビジネスアナリストのスキル・マインドセット」、「アジャイル型ビジネスアナリスト組織に移行するためのロードマップ」など、かなり具体的な内容が目立ちました。こうしたセッションには多くの参加者が集まり、また参加者からは、これから来る変化に備えようとしている様子が伺えました。

※2 引用:『アジャイル プロジェクト マネジメント意識調査報告 2015』PMI日本支部
※3 引用:『11th annual STAGE OF AGILE REPORT』VERSIONONE.com

※4:SAFeはエンタープライズアジャイルのフレームワークの1つで、経営の意思決定をポートフォリオレベル、プログラムレベル、チームレベルの3階層に分けて管理単位を細分化しつつ、カンバンやバックログといった手法を使って階層間で目標と状況を共有し、全体がタイムリーに連携することを目指したコンセプトです。
なお、数年前までエンタープライズアジャイルのフレームにデファクトスタンダードはなく、DAD(Disciplined Agile Delivery)をはじめ、いくつも種類がありましたが、今年のBBCの様子を見るとSAFeがほぼデファクトと言えそうな様子でした。

何故、日本ではアジャイルが適用されないのか

昨今、「企業の競争力を維持するためにはアジリティが必須」などと言われますが、日本ではアジャイルメソッドはおろか、アジャイル開発方法論ですら海外で聞くほど導入が進んでいるとは感じません。この違いの背景には、海外と日本のIT部門の体制の違いが大きく影響しています。

日本のIT開発は、企画から導入・運用に至るまでSIベンダーやITコンサルタントに外注する文化です。基本的に開発機能は企業の外にあり、IT部門はベンダーマネジメントが主業務となっていることも珍しくありません。このように開発機能を外部に委託していると、アジャイル的にシステム開発を進めるハードルが高くなります。
ウォーターフォール型のシステム開発では要件定義で開発対象範囲が厳格に定められるため、ベンダーはその範囲に基づいて見積書を作成し、請負契約を結ぶことができます。しかしアジャイル型の開発では、状況に応じて開発機能の優先順位や開発範囲を調整し続けることになるため、ベンダーにとっては瑕疵責任を持つ範囲や正確な見積り算出が難しくなります。日本企業ではこの契約の難しさに起因して、アジャイルメソッドが導入されにくいと言われています。

一方、海外、特に欧米では、IT部門の中にビジネス部門の要求開発を支援する「ビジネスアナリスト」、ビジネス部門の要求をシステム設計に反映させる「システムアナリスト」、実際に開発を行う「エンジニア」の3者が揃っていて、3者が連携して自社のIT開発を進めています。基本的に社内で開発を完結できるため、自分たちの裁量でアジャイルの導入を進められます(オフショア開発等を活用している企業では、日本企業同様にベンダーとの契約で課題を抱えているそうです)。
自社のIT開発を担っているだけに、欧米企業のIT部門は自社のビジネス基盤を支えているという自負も強く、アジャイル開発方法論もIT部門が自発的にトライアルを始めて、ノウハウ・経験値を蓄積してきています。欧米企業はこうした背景がある上で、アジャイルメソッドの導入へと向かっています。

このように、欧米と日本では事情が異なり、一義的に比較はできません。アジャイル導入を進めている地域はそれが適しやすい環境があるからだということを理解した上で、続きを読んでいただければと思います。

エンタープライズアジャイルにおけるビジネスアナリストの存在価値とは

さて、話をBBC2017のレポートに戻します。冒頭でお話したように海外のビジネスアナリストはアジャイルメソッドに強い関心を持っています。それは、この変化がビジネスアナリストの働き方や存在価値に大きな影響を与えるからです。
実はアジャイル開発方法論が導入され始めた頃から一昨年くらいまで「アジャイル型のプロジェクトではビジネスアナリストは不要になるのではないか?」という問いかけがありました。アジャイル型のプロジェクトでは、プロダクトオーナーとなるビジネス部門と開発チームが直接コミュニケーションをとって開発すればよく、その間にビジネスアナリストが入る余地はなくなると考えられていたのです。

 

当初はアジャイル型の開発ではビジネスアナリストは不要と考えられていた

 

しかし、この数年でアジャイルメソッドを活用した取り組みが進んで事例が蓄積されるに従い、「やはりアジャイル開発でもビジネスアナリストは必要」という認識が強くなってきたようです。実際に企業ITの領域でアジャイル型のプロジェクトをやってみると、ITリテラシがあまり高くなく、プロジェクト型の働き方に不慣れで、かつ基本的に忙しいビジネス部門だけでは、プロダクトオーナーの役割をしっかり果たすことが出来なかったのです。BBC2017では、実際にビジネス部門が明確な方向を指し示せず、スクラムチームは何を目指せば良いのかも分からずとにかく開発を続けて最終的に失敗したという話を聞きました。
開発体制をアジャイル型にしたからといって、結局はしっかりとビジネスの目指す方向を確立し、妥当なシステム要求を出さないと、システムは動かないのです。こうした失敗経験から、プロダクトオーナーとスクラムチームのハブとなりつつ、要求開発の専門家としてプロダクトオーナーの意思決定を支援するビジネスアナリストの必要性が明確になったのです。

このようにアジャイルの世界でもビジネスアナリストに活躍の場があることは分かったのですが、だからと言って、ビジネスアナリストがこれまで通りの働き方で良いということではありません。では、これからのアジャイル時代のビジネスアナリストとはどのような姿なのでしょうか。後編「アジャイルへの適用を迫られる海外のビジネスアナリスト~BBC2017から見るビジネスアナリシスの最新動向~」では、BBC2017での議論から読み取れるアジャイル時代のビジネスアナリスト像と彼らに求められるスキルとマインドについて解説してみたいと思います。ご一読ありがとうございました。

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