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リーダーシップ

プロジェクトとプログラムの違いとは

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2016年12月に掲載されたものを移設したものです。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。先日、ある社員が社内SNSに「プログラムとプロジェクトの違い」についての質問をして、議論が大変盛り上がりました。今回は「プロジェクト」と「プログラム」の違いについて語ってみます。「プログラムとはプロジェクトの集合体である」という一般的に語られる理解は正しいのでしょうか?

プロジェクトの定義とプログラムの定義

まずプロジェクトの定義をおさらいします。PMI(米国プロジェクトマネジメント学会)が発行するPMBOKではプロジェクトを「独自の製品、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務である。」と定義しています。プロジェクトマネジメントの勉強をすれば常に強調されるのがこの「独自性(反復的ではなく個別的な製品・成果物を生み出す)」と「有期性」です。このプロジェクトを効果的に運営する手法がプロジェクトマネジメントですね。

一方で、同じPMIが発行するプログラムマネジメント標準によると「プログラムとは、プロジェクトを個々にマネジメントすることでは得られないベネフィットとコントロールを実現するために、調和のとれた方法でマネジメントされる相互に関連するプロジェクトのグループである」とされています。簡単に表現するとプログラムとは共通の利益の下に関連するプロジェクトの集合体ということになります。

そしてこのプログラムを運営する手法がプログラムマネジメントで、PMIでは「プログラムマネジメントとは、プログラムの戦略目標とベネフィットを達成するために、プログラムを集中的に調和された方法でマネジメントすること」とされています。

定義から読み取れるプロジェクトとプログラムの違い

これらを合わせて考えると、なにかしらの目標を達成するための活動がプログラムで、それらのプログラムはより細かい管理単位としてのプロジェクトに分解され、プロジェクト内部の管理単位はアクティビティ(ないしWork)に分解されるというように理解できます。

この場合、プログラムとプロジェクトの違いはもっぱら取り組みの階層の違いになります。ある都市再開発で複数のデベロッパーがエリア別に開発を分担している場合、再開発全体がプログラムで、各デベロッパーの個別建設計画はプロジェクトです。ただ各デベロッパーが受け持ちエリアに複数の建物を建てようとしている場合、各デベロッパーから見れば受け持ちエリアの建設計画がプログラムで、各建物の建設がプロジェクトとなります。このように何をプログラム、プロジェクトとするかはどの階層を軸にして見るかで変わります。

「プロジェクトの集合体がプログラム」は正しいか?

さてここからが本題です。

「プロジェクトの集合がプログラムで、プログラムの分解がプロジェクト」というこの理解は正しいでしょうか?

「プログラム」の定義は団体や国によって違うのですが、ここではWikipediaの「プログラムマネジメント」にある記述を参照してみます。Wikipediaの説明にはプロジェクトとプログラムの違いとして「プロジェクトは個別なもので固有の期間を持つ。プログラムは持続的であり、一定の成果を継続的に達成するために実施される」という一文があります。

これこそが関係者の間でプロジェクトとプログラムの大きな違いとして議論されている重要な部分です。本当にプログラムがプロジェクトの集合体であれば、個別で固有の期間の集合体であるプログラムの成果物も必然的に個別で明確な期間を持つはずですから、この記述は不思議です。ここではWikipediaのさきほどの記述を正として、プログラムとプロジェクトの違いについて考察してみます。

この背景にあるプロジェクトとプログラムの根本の違いは、プロジェクトが個別の製品やサービス、状態という比較的物理的な成果物を生み出すための活動なのに対して、プログラムは組織戦略目標達成・維持のための活動だということです。

「プログラム」という言葉は「プロジェクト」に比べると、企業ではまだなじみが薄い言葉ですが、パブリックセクター(公的機関)ではよくつかわれる言葉です。例えば「途上国での就学率向上プログラム」「乳児死亡率改善プログラム」といった言葉を聞くことは多いのではないでしょうか(WHOとかUNCHRとかを思い浮かべてください)。

ここでは、途上国で就学率に目標数値(例:6歳以上、12歳以下の就学率XX%)を置いて向上させようとする「就学率向上プログラム」を例にとってプログラムとプロジェクトの違いについて説明してみます。すると、プログラムにはプロジェクトと比べた際に三つの大きな違いがあることが分かります。

プログラムには反復型の活動が含まれることがある

まず一つ目の違いは「プロジェクト型の活動」と「反復型の活動」の混在です。途上国で就学率に明確な目標数値(例:6歳以上、12歳以下の就学率XX%)を置いて向上させようと思えば、いくつもの活動が必要になります。「(各地域の)学校建設」「教師育成」「児童労働の撲滅」「これらに伴う貧困層への支援活動」などです。この中で個別の学校建設は明確な期限を設定できますし、物理的な成果物も存在する「プロジェクト」です。しかし、教師育成は個々には教師を採用して育成し送り出していく「プロジェクト」とも言えますが、増えていく学校に合わせて反復的に一定数の教師を育成して定期的に送り出していくという意味では(プロジェクトではない)反復型の活動にも見えます。

またプログラムは各種のプロジェクトに対してコスト管理・人員管理などの処理を行う基盤機能も提供しますが、このような活動はプロジェクトというよりも定常業務に近いものです。当然のことながら、このような定常的・反復的な活動はそのサイクル毎に活動効率や効果を見直し改善される、いわゆるPDCAを回すことが求められます。「PDCAを回す」という発想は本来プロジェクトにはない発想で、プログラムにはこのような「反復型の活動」が含まれるのです。

プログラムは成果の創出だけでなく、成果の維持・監視も含まれることがある

二つ目の違いですが、プロジェクトは目的の成果物を生み出したらその使命を終え解散するのが原則です。ところがプログラムは必ずしもそうとは言えません。この場合だと、一定の目標就学率を達成したら「プログラム成功」として解散しても良いのでしょうか?一旦達成してもそれは一過性で、また状況は戦略目標を下回るかもしれません。この場合、一定の期間は就学率が目標数値を常に超えているか監視して、下回ったり、下回りそうな兆候が見えたりしたら手を打つのもプログラムの使命です。

プログラムが解散するのは戦略目標自体が新しい目標に上書きされ使命を終えた場合か、目標を達成する仕組みが完全に社会や市場、行政システムに定着し、これ以上の監視が必要なくなったような場合です。このように成果の実現だけでなく、その維持・管理にも使命を負うというのがプログラムの特徴の一つです。

プログラムは明確な期限をもたないことがある

そして三つ目の特徴ですが、そもそもプログラムには有期性が怪しいものがあるということです。プログラムでも普通は目標達成の目標となる時期は決められています。ただ、プログラムにおける目標時期はすごく緩やかで、「期限」と呼べるほど強い制約事項ではないケースがほとんどです。ここまでの例で照らすと「5年以内に就学率をX%向上させる」というような表現になりますが、あくでも目標なので必ずしも「5年以内に達成できなければ失敗」というわけでもありません。大切なのは一定の時間軸で実施することよりも、(いつかは)目標を達成することなのです。

これについてはよく参照される事例がアメリカのアポロ計画です。アメリカの有人宇宙飛行計画は、当初プロジェクトでした(Project Mercury/ Project Gemini)。これらは比較的短期で期限と明確な成果物をもっていました。しかしアポロ計画は「Project Apollo」ではありません。「Apollo Program」です(日本語だとマーキュリー計画もジェミニ計画もアポロ計画も全て「計画」なのでなんとも紛らわしいのですが)。

アポロ計画は当初明確な期限をもっておらず、1961年当時に「10年以内(1960年代中に)人類を月に到達させる」という極めて長期、かつ曖昧な時間目標でした(この目標を掲げたのがジョンFケネディです)。このような明確な期限を持たなかったり、柔軟に期限を変更できたりする時間設定の考え方を「オープン・エンド」と呼びます。アポロ計画(アポロプログラム)の中には個別のロケット打ち上げプロジェクトが含まれ、それぞれの打ち上げは明確な期限をもっています(全部で23の個別計画=プロジェクトが含まれます)。なおアポロ11号の月面着陸はケネディが示した目標ぎりぎりの1969年に達成されました。このような「曖昧な有期性」がプログラムの特徴です。

ちなみに二つ目の特徴であげた「一度目標を達成したら終了とは限らない」というのはアポロ計画にもあてはまり、アポロ11号の月着陸成功の後、アポロ拡張計画であるスカイラブ計画を含めて11のプロジェクトが引き続き実施されています(このうち有名なのが映画にもなったアポロ13号)。

企業活動でも「プログラム」の概念を持つべき

というわけでプログラムとプロジェクトの違いをまとめると以下の三つです。

  • プログラムには反復型の活動が含まれることがある。
  • プログラムは成果の創出だけでなく、成果の維持・監視も含まれることがある。
  • プログラムは明確な期限をもたないことがある。

全てに「ことがある」とつくのは、プログラムの定義が国、団体で異なることと、このどれもが必ずしも必須の条件ではないためです。ただ、これらを意識するとWikipediaの「プロジェクトは個別なもので固有の期間を持つ。プログラムは持続的であり、一定の成果を継続的に達成するために実施される」という言葉の持つ意味が分かるかと思います。

長期間、複雑な課題に対処する社会的、国家的活動の方がプログラムに向いていることは間違いありませんが、企業でもプログラムとしてのコントロールが必要な課題はたくさんあります。ただプログラムという言葉を企業で聞くことは少なく、小さな単位で行われるプロジェクトが乱立し、連携できていない姿を見ることは少なくありません。これは戦略や全社的に対処すべき課題をしっかりした変化の道筋に落とし込まず、曖昧な方針や数値目標だけで個々の部署に指示を出すために起こります。指示を受けた個々の部署は、いわゆる“サイロ“の中で自部署に閉じたプロジェクトを立ち上げるため相互連携がされない関連プロジェクトが多数存在してしまうのです。

経営計画策定や戦略立案の際に、数値目標や大まかな活動方針だけでなく、「プログラム」として具体的な変化の道筋を示した上で、個別のプロジェクトに活動を委譲していくという考え方は大変参考になるはずです。