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プロセス変革・業務改革

家事はどこまでやるのが正解? プロセス変革で家庭を平和に⑤

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を移設したものです。

ライター

大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTSのコンサルタント大井はるかです。これまで続けてきたテーマ『プロセス変革で家庭を平和に』も今回が最終回となります。前回のコラムでは夫婦間での家事・育児の役割分担をする時はプロセスの手順ではなく、成果に対してオーナーシップを持つことが大切だとお話しました。自分のやり方に固執するのではなく「どんな成果をあげるか」を重視して取り組むと、スムーズに分担が出来る上に、より良い成果をあげようと夫婦間でアイデアを出し合う等プロセスを洗練させていくことができます。今回は、このプロセスの成果についてお話したいと思います。

プロセスの成果って何だろう?

まずは最初に、「プロセスの成果」とは何かを考えてみたいと思います。ビジネスプロセスでは、インプットとなる物や情報が情報システムや設備・道具類、担当する人の手によって処理され、アウトプットが創出されます(下記の図を参照)。成果とは、「あることを行った結果得られるよい結果」という意味なので、「プロセスの成果」とはそのプロセスでつくられたアウトプットの品質が期待通りであること、つまり、そのプロセスの目的・KPIに適っていることと表現できます。

図 ビジネスプロセスを構成する要素

家庭のプロセスで言うと、例えば食器洗いであれば、インプットは[使用済みの食器]、処理は[食器を洗う一通りの手順]、アウトプットは[洗われた食器]であり、食器洗いの成果とは、食器が期待に添うように洗われているか否かとなります。

成果の基準は人それぞれ

プロセスに求める目的やKPIによって求める成果は千差万別であり、またその成果に求める期待値の高さも同じく人それぞれです。では、そのプロセスに対して何をどの程度求めるのか決めるのは、一体誰でしょうか?家事サービスのお客様は家族なので、その成果の基準を決めるのは家事の担い手を含めた家族全員であるはずです。しかし、意外とこの点を意識して家事をしている人は少ないように感じます。

私自身も1人で家事全般をこなしていた時は自分の基準しか考えず、夫が何を望んでいるかはあまり気にしていませんでした。それでも成立していたのは、たまたま夫が家事に求めるサービスレベルが私のものより低かっただけに過ぎません。子どもが産まれ何かと忙しくなり、自分の判断で勝手にサービスレベルを下げた(生活に支障がない程度に掃除や洗濯の頻度を減らした)ところ、最近家事をさぼっているのではないかと言われるようになりました。いつしか夫の求めるサービスレベルの方が私のものより高くなっていたのです。

このサービスレベルに対する認識をあわせておかないと、日々の生活の中でストレスが生まれ、時にはケンカに発展する可能性すらあります。毎日「もうちょっときれいな部屋で生活したいな…」と感じるのもストレスですし、当然私のように小言を言われるのもいい気分はしませんよね。

我が家のサービスレベルを考えてみよう

家事の担い手も家事サービスを受ける家族も気持ちよく暮らせる環境を作るには、予めその家庭にとって望ましいサービスレベルを作っておくことをお勧めします。サービスレベルという言葉を聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「どこまで家事をすればOKか?」という基準を決めればよいのです。そのためには、なにも家族会議を開く必要はなく、日々の生活の中で家事についてフィードバックし合うようにすればOKです。

ポイントは、一方的に自分の意見を通そうとしたり、主張を戦わせるのではなく、お互いの違いを認めた上で皆にとって心地よい妥協点を見つけることです。例えば先ほど私が夫から小言を言われたくだりを紹介しましたが、こうした時に「気になるなら自分でやれば!?」とケンカをふっかけるのではなく(そう言いたくもなりますが・・・)、「私はこれくらいの部屋の片付き加減や洗濯の頻度で支障はないと思っているけど、あなたはどう思う?」と聞いてみてはどうでしょうか。そして相手の意見を聞いて、求めるレベルが喰い違う場合は試行錯誤をしながら落としどころを探っていけばよいのです。

うまく家庭内で家事分担が機能している家では、日常のやり取りを通じて暗黙的に家事のサービスレベルが合意されていることが多いように感じます。もし家事の仕上がりや頻度についてストレスを感じたり気になることがあれば、是非それを言葉にして相手に伝えてみてください。こうしたコミュニケーションの積み重ねがあって初めて、自分たちにとって最適なレベルが具体的になっていきます。

決まりごとは数字にすると守りやすい

家事をどこまでやるのが最適なのかが分かったら、その状態を保つための指標(KPI)を決めておくことをお勧めします。例えば「掃除機は2日に1回かける」「洗濯機は朝晩に1回ずつ回す」といった具合です。家事の成果をすべて定量的に表せるわけではありませんが、数字にしておくと程度が分かりやすいですし、一旦ルーチン化してしまえばあまり意識することなく家庭を快適な状態で保てるようになります。

数値目標を決めるとかえってプレッシャーになるのでは?と思うかもしれませんが、KPIを決める目的は快適な生活を維持するためですし、KPIを守るのが大変であれば柔軟にその数値を見直せばよいと思います。実際に家事をしながら生活する中で、その時その家族にとってちょうど良い定量的な目標を見つけてみてください。

ちなみに、ビジネスの世界でも求められるサービスレベルを実現・維持するために定量的なKPIを作り、実績と比較してその仕事の成果を評価しています。SLA(サービスレベルアグリーメント)と呼ばれるもので、「このサービスをこのサービスレベルで提供して下さい」という企業同士の約束事として業務委託などの契約時に企業間で交わされています。もちろんこのSLAも運用実績をふまえて企業間で適宜適正値の見直しが行われています。

家庭生活を最適化していく3つのポイント

これまでビジネスプロセスマネジメントの手法を参考に、家庭生活を快適にする方法をいろいろと考えてきましたが、如何だったでしょうか?ビジネスプロセスマネジメントを成功させるには3つのポイントがあります。1つは「ビジネスプロセスを把握する」こと、2つ目は「ビジネスプロセスの目標をしっかりと決めて、目標に対して実績を管理する」こと、3つ目は「適切なコミュニケーションをとる」ことです。

このポイントは家庭のプロセスマネジメントにもそのまま適用できます。そもそも私がこのコラムを書くきっかけになったのは、家事分担の話をしたくても普段家事をしない夫には話が通じなかったことでした。そこで家事のプロセスマップを描いて夫と認識を合わせ、理想の家事分担の在り方を話しあい、実際に分担を進めながらお互いにとってちょうど良い状態を模索するようになりました。コラムで紹介した内容はすべてこれらの経験をもとに書いています。実際にやってみて、改めてビジネスプロセスマネジメントの手法はビジネスの世界に留まらず、家庭をはじめ、あらゆる組織運営に適用できるものだと思いました。

会社であれ、趣味の集まりであれ、家庭であれ、所属している組織がうまく回っていないなと感じたら、皆さまも是非ビジネスプロセスマネジメントの手法を思い出し、小さな範囲からでも実際にチャレンジしていただけたらと思います。私たちは人と人のつながりの中で生きていて、人生のほとんどの時間を何かしらの組織・コミュニティに属して過ごす人が大半だと思います。プロセスを最適化させることは、人生をより良くすることに繋がります。ビジネスプロセスマネジメントが皆さまの生活をより良いものにするヒントになれば嬉しく思います。それでは、これで本コラムは終了します。ご一読ありがとうございました。