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プロセス変革・業務改革

家庭のプロセスを可視化する プロセス変革で家庭を平和に①

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を移設したものです。

ライター

大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

世の既婚女性の方々へ

こんな夫婦の会話に身に覚えはありませんか?

妻

ちょっとあなた!また靴下を脱ぎっぱなしにして・・・ちゃんとカゴに入れてって何度も言っているでしょ?あなたは家事を手伝うどころか増やしてばかりね!

夫

靴下の件は謝るけど、俺だって家事してるよ!今朝だってゴミを捨ててから出社したし。

妻

そんなの家事をしてるうちに入らないわよ!私が普段どれだけあなたの分まで家事してあげてるのか分かってないんじゃないの?

夫

料理と掃除と洗濯だろ?はいはい、感謝してますよ(棒読み)

妻

・・・もういいわ(深いため息)

はじめまして、LTSのコンサルタント大井悠(おおいはるか)です。これは私の夫との会話ですが、友人・知人からも「夫が家事や育児を手伝ってくれない!」「何で私ばっかり!」という同様の愚痴・悩みを頻繁に聞きます。もはや夫の家事・育児への無理解、非協力は全国の主婦共通の悩みと言って過言はないでしょう。ある調査によると小さな子を持つ日本男性が1日のうち家事・育児に費やす時間はたった38分だそうです。同じ調査で女性は2.5時間ですから、その差は約4倍。明らかに家事育児の負担は女性に偏っています。

※OECDの調査で6歳未満の子を持つ世帯が対象

私の経験から推測するに、原因は夫の「家事育児に対する当事者意識の欠如」と、「そもそも家事・育児の内容を知らない」の2つにあります。自分事じゃないから知ろうとしない→知ろうとしないから分からない→分からないから協力しない、そんなところではないでしょうか。更に、夫に愚痴を言ったり責めるわりに、妻は夫に家事や育児の内容・手順を伝え、具体的な作業を依頼することをしません。

よってこの悪循環は助長され、ちっとも楽にならず、夫婦喧嘩とため息だけが増えていきます。夫婦の間で完全に仕事と家事の役割分担が成り立っている家庭は良いのですが、共働き家庭ではどちらか一人で全ての家事(ましてや育児)をこなすのは並大抵のことではありません。世の夫たちは、「家事・育児のことは分からないから、出来ません」と言っている場合ではないのです。

実はこうした状況を改善する良い方法があります。ここまでで説明したような問題は企業でもよく起こるのですが、企業はビジネスプロセスを改善、変革する、ビジネスプロセスマネジメント(以下、BPM)という手法を用いて問題を解決します(一般的に、業務改善や業務変革と呼ばれます)。このBPMは頭にビジネスと言う名前こそついていますが、企業だけではなく、病院、教育機関、非営利組織等、様々な組織に適用することが可能です。

であれば、家庭に適用できないわけはありません。家庭も「構成員の生活基盤を整え、幸せな生活を実現する」ことを目的とした一つの組織だからです。断言しますが、家事・育児といった家庭生活の問題も、ビジネスプロセスマネジメントで解決できます。本コラムでは、その方法を自身の体験談を交えながら紹介します。今まさに冒頭のような夫婦喧嘩をしている奥様には是非読んでほしいと思います。

本コラムを読んでビジネスプロセスについてもっと知りたくなった方には、数少ないビジネスプロセスの専門書である『ビジネスプロセスの教科書』(東洋経済)をお勧めします。初めての方でも分かりやすく書かれており、とても読みやすいです。また関連するこちらのコラム「ビジネスプロセスの教科書」のこぼれ話もよろしければご覧ください。というわけで、さっそく本編に参ります。

家庭はプロセスで回っている

家事はある種のサービスです。共働き家庭、方働き家庭、二世帯、核家族と家庭の形態は様々ですが、誰かが(ほとんどの家庭では妻)が家事や育児をこなし、家族がその恩恵を受けることで成立していますよね。つまり、家庭とは「家族というお客様に家事という名のサービスを届けるプロセスの集合体」によって維持される組織と表現できるのです。では、家庭生活をプロセスに置き換えてみましょう。以下は家庭生活における最もシンプルなプロセスを表現したものです(図1)。このような基本的なプロセスをプライマリプロセスと呼びます。プライマリプロセスを書き出すことで、どのようなお客様のニーズが存在し、そのニーズに応えるためにどのようなプロセスが実行されているか大まかに俯瞰することができます。

図1 家庭のプロセスマップ

企業活動(事業)を表現するのがビジネスプロセスなので、ここではホームプロセスと呼びましょう。ホームプロセスは、お客様である家族のニーズごとに、生活を維持する「家事プロセス」、家族を増やし育む「育児プロセス」、家計を維持する「家計管理プロセス」の3つに分けられます。DINKS(子供のいない共働き世帯)であれば家事プロセスと家計管理プロセスだけになりますし、介護を伴う家庭であれば「介護プロセス」が入ります。ペットを飼っている場合は「ペットのお世話プロセス」が入るかもしれませんね。このようなプロセスの関係性を表した図を「プロセスマップ」と呼びます。プロセスマップを描くとその家庭がどんなプロセスによって支えられているのか把握できます。

ゴミ捨ては本当に夫が担当している家事なのか

プロセスの概観を捉えたら、次は各プロセスを分解します。プライマリプロセスを1段階分解すると、下記の図2のようになります。そして、更に細かい階層まで分解すると、図3のようになります。

図2 分解したプロセスマップ
図3 さらに分解したプロセスマップ

このように、ホームプロセスは階層構造で表現することができます。プライマリプロセス「家事プロセス」を構成する「暮らしの方針策定プロセス」や「衣類管理プロセス」をサブプロセスと呼び、このサブプロセスは更に分解することができます。図3までホームプロセスを分解すると、家庭生活は136個のプロセスによって構成されていることが分かりました。ここまでくると、かなりイメージしやすくなるので、夫婦間で家事や育児に対する認識を合わせに使うことができます。例えば、冒頭の会話で登場したゴミ捨てですが、プロセスマップを見ると、ゴミを集積所に運ぶのは掃除実施プロセスの一部であることが分かります(図4)。

図4 掃除実施プロセス

ゴミを集積所に運ぶ以前に、まずゴミ袋等の消耗品や掃除道具を調達し、家の各所を清掃して回り、出たゴミを分別し、ご粗大ごみがあればその廃棄手続きをし、最後の最後でやっとゴミを集積所に運搬しています。もちろん、もっとも大きな工数を費やすのは当然ながら「清掃実施」で、ゴミを集積所に運ぶのはほんの仕上げに過ぎません。このような認識を持っていたら、世の男性は出社のついでにゴミを出しているからといって、「俺は家事をしている!」と大きな顔はできないのではないでしょうか(「ゴミを集積所に出す」なんて一瞬で終わります!)。

プロセスマップで役割分担を見直す

このように、プロセスマップを作ると、家庭生活の運営についてかなり細かいレベルで認識を合わせることができ、夫婦間の役割分担の話し合いをスムーズに進めるのに役立ちます。

プロセスマップの使いようは様々です。私はプロセスマップに役割分担の状況を色分けしたもの(図5)を、「我が家は共働きだけど、この状況はおかしいよね?」と夫に突き付けました。青色は夫、紫色は夫婦両方、ピンク色は私が担当しているプロセスです(当時は子どもがいなかったので育児プロセスは省いています)。

図5 夫との役割分担(Before)

夫がメインで担当しているプロセスはゼロ、夫婦分担の家事は仕事関係以外にはゴミを集積所に運搬すること、近所づきあい、親戚づきあいの3つだけ。このマップを見せるだけでも、我が家の場合、夫の意識改革には十分でした。それ以降、夫から何か手伝おうか?と声がかかることが増え、夫の担当領域が徐々に増えていきました。図6は1年後の役割分担の状況を反映したものです(娘が生まれたので育児プロセスが運用されています)。

図6 夫との役割分担(After)

かなり家事・育児の分担が進みました。ここまでの変化はプロセスマップを作成したことというより、それをベースに話し合って分担を進めた結果ですが、全体に対する認識を合わせることは、それだけで大きな変化を生み出します。

上記で紹介したホームプロセスマップは私の家をモデルとして作成したものですが、家庭の構造や生活様式によってプロセスは異なります。もし興味があれば、ご自身の家庭のプロセスを洗い出して、我が家のプロセスマップを作成してみてください。そして、是非プロセスマップを家族で囲んで「家庭が回っている仕組み」の認識合わせをしてみてください。夫婦の役割分担だけでなく、子どもに任せるお手伝いを考えたり、家事のスリム化する時にも有効かもしれませんね。

次回は応用編として、プロセスマップをベースにした家事・育児の効率化をお話したいと思います。