時短術だけでは家事・育児は効率化されない プロセス変革で家庭を平和に②のサムネイル
プロセス変革・業務改革

時短術だけでは家事・育児は効率化されない プロセス変革で家庭を平和に②

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を移設したものです。

ライター

大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTSのコンサルタント大井悠(おおいはるか)です。前回のコラム『プロセス変革で家庭を平和に 第1回:家庭のプロセスを可視化する』では家庭生活のプロセスマップを作成して、夫婦間で家事に対する認識を合わせることについてお話しました。今回はプロセスマップを前提とした家事・育児の効率化についてお話したいと思います。

トップダウンとボトムアップ

企業が業務を変革する時には、現場で小さな改善を積み重ねるボトムアップのアプローチと、経営レベルであるべき理想の状況を描き、その実現のために変革していくトップダウンのアプローチがあります。

家事・育児の改善というと、よく主婦雑誌で紹介されている「時短術」※1が頭に浮かびますが、こうした草の根的な改善はボトムアップのアプローチです。一方、家庭生活にもトップダウンの効率化アプローチがあります。その家庭にとって理想的な家事・育児の状況を話し合い、その実現に向かって施策を考えるのです。私はこのトップダウンのアプローチこそ大切だと思っています。

※1
例えばレンジを駆使して通常より手早く調理をするとか、離乳食はまとめて作ってフリージングしておく等、巷には家事・育児の時短術が溢れています。

目指すは効率化より最適化

なぜトップダウンのアプローチが大切なのかと言うと、足元で出来る時短術に気を囚われていると、そもそも夫婦の役割分担が適切なのか、それは本当に自分たちでやるべき仕事なのか、という本質論に踏み込んで考えられないからです。時短術をいくら積み重ねても、妻ばかりに負担が偏る状況は変わりませんし、生活スタイルを変えたり外部のサービスを利用していくといった発想には至りにくいものです。また、時短術は必ずしも望みどおりの結果が得られるとは限りません。

例えばレンジ調理で作られた料理は通常の調理で作られたものと比較すると味や栄養素が劣ることが多く、栄養満点の美味しい食事を家族に提供したい方にとっては有効な手段とは言えません。すべての家事・育児を単に短時間or簡単にこなせればいいのかというと、そうではありませんよね。その家庭にとってどういった状況が理想的なのか、どこは手を抜いて良くて、何を大切にしたいのかを考えた上で施策を考えることが重要になります。

この時、更に施策を検討する際の指針となる原則を考えておくと尚良いでしょう。目指すは闇雲な効率化ではなく最適化です。例えば、共働きの我が家は以下のような理想を掲げて最適化に取り組みました(念のため言っておきますが、私が一方的に決めたわけではなく、夫婦で話し合った結果です)。まずは、こうした理想と原則を決めるところから、家庭生活を最適化する取り組みが始まります。

【理想】
家事・育児を夫婦どちらも出来て、夫婦のうち片方が不在でも家庭が回る。
家事にかける時間が最小限に、子どもにかける時間は最大限になっている。

【原則】
1.夫婦平等(妻ばかりに負担をかけない)
2.家事の負担は最小化したいが、食事は安全で美味しいものを食べる
3.お金で解決できることはお金を使う

夫婦で理想を語るところから始めよう

家庭生活の理想や原則を話し合うなんて面倒だと思うかもしれませんね。そもそも、どんな家庭を築いて、どんな役割分担で、どんな原則を守りながら家庭生活を回していくのかを夫婦でしっかり話し合ったことがない家庭が多いのではないでしょうか。気軽に楽しく話せる内容ではありませんし、揉める可能性もあるので、なぁなぁで済ませてきたという家庭もあるかもしれません(何を隠そう、我が家がそうでした)。ですが、ここをしっかり話し合って共通認識を持っていないと、気付けば妻ばかりに家事・育児が押し付けられ、夫婦喧嘩が勃発するならまだマシで、心のすれ違いから夫婦の危機すら生じる恐れがあります。

家事・育児の最適化なんて夢のまた夢。ここはひとつ、お互いが納得できるまで話し合って理想をすり合わせ、その実現に向けて協力体制を築いていくべきだと思います。理想の形は家庭の数だけあるでしょう。夫婦平等と言う形もあれば、妻は家庭を守り夫は外で稼いでくるというのも1つの理想の形です。大切なのは、その理想について夫婦が納得していること。これに尽きます。

ビジネスプロセスの話から夫婦の話し合いの話になるなんて思いも寄らない展開かもしれませんが、企業のプロセス変革でもこうした話し合いは非常に大切です。どんな組織でも、理想を語らず決め事も作らずただ目の前のことを無秩序に進めていくと、楽なやり方に流れ、声の大きい人の意見ばかり通り、よく気が付く人に仕事が集中して、不平不満が山のように積みあがります。当然、社内の無駄や機会損失も膨れ上がります。

そうならないために、企業は理想を描いて秩序を作り、生産的で規律的な環境を目指すのです。こうした変革のベースがあってこそ、組織をより良い状態に持っていくことができるのです。家庭であれ企業であれ、最適化を目指す際は、まず理想を描き、守るべき原則を決め、関係者で認識を合わせることが最初の、そして最重要な一歩です。

理想と原則を決めたら、プロセスマップの出番

さて、家庭生活を最適化するために夫婦で理想の状態と守るべき原則を決めたら、ここからがプロセスマップの出番です。理想と現状の差異を、プロセスマップをベースに確認します。我が家の掲げた理想は前述の通り、「夫婦平等」「家事にかける手間は最小限」「子どもと過ごす時間を最大限に」でした。この理想に対して現状はどうなっているでしょうか?ここで再度プロセスマップの登場です。下記は前回のコラムで登場した役割分担を記述したマップです。

夫婦平等とは程遠いのは一目瞭然ですね。我が家のやるべきことの第1は夫婦の役割分担を決めることです。そして、家事の簡素化と育児時間の最大化です。このマップを作った当時は出産前だったので育児はさておき、家事の簡素化は進められそうです。

家事にかかる手間はプロセスマップを見ただけでは分かりませんが、マップにはやるべき家事が網羅されているので、これを元にプロセス1つ1つに対して簡素化の対象とするか、どんな対応が考えられるかを検討します。これがやるべきことの2つ目です。ここから先はこの2つの施策を進めていって、原則に従いながら、理想に向けて現状を変革していく方法や観点をお話していきたいと思います。

次回のコラムでは、夫婦の役割分担を進める方法と観点をお話しますので、またご一読いただければと思います。